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【特集】

グループ経営システム

M&Aや分社化などを戦略的に進める企業が増える中、形成した企業グループの経営をどのように進めるかが大きな経営課題となっている。グループシナジーを発揮し、効果的なマネジメントシステムやガバナンスを構築するメソッドを提言する。
コラム2021.08.02

グループ経営のプラットフォームとしてのホールディング経営:村上 知

グループ経営とホールディング経営の関係性

 

グループ経営にホールディング機能を持たせることで、親会社は経営戦略に、子会社はそれぞれの事業運営に専念でき、経営の効率化を図ることができる。また、複雑なグループ戦略のコントロールが可能となり、企業価値の最大化にもつながる。

 

タナベ経営では、グループ経営を「複数の異なる事業を営む単一の企業、もしくは複数の連結事業体からなる多角化企業」と定義している。一方で、ホールディング経営とは、顧客・マーケットと向き合う事業会社と、事業推進に必要な経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報・ノウハウ)を事業会社に提供する機能を持つホールディングカンパニー(以降、HDC)に、会社単位で分ける組織形態だ。よって本稿では、グループ経営を推進するためのプラットフォームとして、ホールディング経営という経営スタイルが存在すると捉えている。

 

【図表】は、従来型のグループ経営と、ホールディング経営の違いを示したものだ。

 

【図表】従来型のグループ経営とホールディング経営の違い

出所:タナベ経営

 

従来型のグループ経営は、親会社の中にコーポレート機能やサービス機能などが含まれているものの、あくまで事業会社である親会社が関係会社を管理するという組織形態である。親会社の事業が主事業であり、関連会社は関連事業や販売・製造機能を運営するという位置付けになっている。親会社が子会社の上位に位置する親子関係が成立するため、親会社単体の業績が重視されやすくなる。また、親会社の業績や戦略に子会社の運営が左右されやすくなる特徴もある。

 

一方で、ホールディング経営の組織形態は、グループ本社機能と事業運営会社を完全に分離し、HDCはグループ経営を推進するプラットフォームとしての機能・役割に専門特化する。HDCは事業を持たないため、特定の事業利益ではなく、グループ全体の利益最大化を目的としたグループ最適の判断が可能となる。

 

 

 

プラットフォームとしてHDCを機能させる3ステップ

 

ホールディング経営において、HDCとしての機能や組織が全くないケースが見受けられる。株式を保有しているだけのいわゆる「ペーパーカンパニー」であり、節税対策を主目的とした体制と言える。

 

この状態から脱却し、HDCをグループ経営におけるプラットフォームとして機能させるためには、「機能デザイン」「組織デザイン」「収益デザイン」の3ステップで設計・具体化を進める必要がある。

 

①機能デザイン

 

HDCに持たせる機能・役割を具体化するステップである。タナベ経営では、5つのテーマ(グループ理念、グループ経営企画機能、グループガバナンス機能、グループマネジメント機能、シェアードサービス機能)を機能させようと提言している。この5つの機能を自社で実装するためには、各機能を業務レベルに落とし込み、果たすべき役割を具体化する必要がある。

 

例えば、グループ経営企画機能であれば、グループビジョン・中期経営計画の策定、グループブランディング戦略の立案、新規事業開発などが挙げられる。シェアードサービス機能であれば、総務・人事・経理業務をHDCに集約し、代行すべき業務範囲を定める。このように、HDCが担うグループ本社機能をより具体的に設計していく。

 

②組織デザイン

 

グループ本社機能を担う組織を具体化するステップである。機能を実装するには、必ずそれを実行する組織や従業員が必要となる。経営企画機能を実行する「グループ経営企画室」、シェアードサービスを実行する「グループ管理本部(総務部、人事部、経理部などの統括)」をHDC内に設計し、決めた機能を誰が果たすのかを明確にする。

 

よくあるケースとして、機能を果たせるスタッフがいないなどの人的リソース不足に陥ることがある。この場合、スタッフの充実と併せて段階的に機能を実装するステップを踏む必要がある。

 

③収益デザイン

 

HDCと事業会社の収益構造の設計である。HDCに従業員が所属し、機能を果たすための業務を遂行することで、HDCにランニングコストが発生する。HDCを赤字続きにするわけにはいかないため、コストに見合った収益源を確保する必要がある。HDCの収益源は傘下の事業会社から吸い上げることになるが、「どのような名目で、いくら吸い上げるか」を設計する必要がある。

 

事業会社から収益を吸い上げる手法として、①経営指導料、②シェアードサービス料、③不動産賃貸料、④配当金の4つが挙げられる。一般的に、経営指導料は親会社が子会社の経営管理を履行する対価として設定。シェアードサービス料は、間接業務を事業会社に代わって親会社が行う対価として設定。不動産賃貸料は、親会社が所有する不動産を子会社に賃貸する対価として設定。配当金は、子会社の利益から一定の割合で親会社が受領する金銭として設定する。

 

各項目の金額設定にルールはないものの、「何に対する対価であるか」を明確にしなければならない。これらの収益源を設計することで、HDCのランニングコストをカバーし、HDCの投資財源を確保することができる。HDCの収益を高めれば高めるほど事業会社の利益は減少するため、HDCと事業会社の収益構造のバランスを取りながら設計を進めることが重要だ。

 

以上がHDCをグループ経営のプラットフォームとして機能させる3ステップである。グループ経営と、その推進体制としてのホールディング経営構築の参考にしていただきたい。

 

 

 

ホールディング経営研究会

事業承継を機にホールディング経営を目指す中堅・中小企業が増加しています。企業が目指すべき、サステナブルな姿とは何か。中堅・上場企業のゲスト講師を迎え、事例に基づきながら幅広い視点と角度でホールディング経営を浮き彫りにしていきます。

Profile
村上 知Satoru Murakami
タナベ経営 ファンクションコンサルティング大阪本部 部長代理。収益財務戦略構築を軸としたコンサルティングで、成長企業の収益力強化、再建企業の収益構造改革などを中心に幅広く活躍中。特に、クライアントの業績向上に向けた計画数字をやり切るためのマネジメント体制構築から実行徹底を得意とし、多くの企業で高い評価を得ている。
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