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【特集】

グループ経営システム

M&Aや分社化などを戦略的に進める企業が増える中、形成した企業グループの経営をどのように進めるかが大きな経営課題となっている。グループシナジーを発揮し、効果的なマネジメントシステムやガバナンスを構築するメソッドを提言する。
メソッド2021.08.02

経営スタイルと組織の成熟度に合わせた構築ステップ:浜岡 裕明

経営スタイルに応じたシステム構築が必須

 

グループ経営システムの構築は、現状の経営スタイルや組織の成熟度によって制約される。単純に規程やルールを作っても適切に運用されなければ、無理・無駄が生じ、グループ経営の本来の目的である「複数の企業がグループとして活動することによって、競争力を高める経営スタイル」は実現できない。グループ経営システム構築コンサルティングでは、現状の各社の経営スタイルを判断し、その段階に合わせてグループ経営システムの構築コンセプトを設定している。本稿では各段階のポイントについて解説する。

 

 

グループ経営システム導入段階
~組織経営に向けた機能の強化~

 

グループ経営システムの導入段階では、社長が自らの経営判断に基づいて意思決定を行う、いわゆる「ワンマン型意思決定スタイル」であることが多い。ワンマン型の意思決定自体は悪いことではないが、経営が社長に依存してしまうことはリスクであるため、組織で経営する体制を整えていくことを考えなければならない。

 

この段階でのグループ経営システムの構築コンセプトは、「組織経営に向けたグループ経営機能の強化」である。まずは、社長に集約されている権限と責任の、役員・経営幹部への委譲を前提としたガバナンス機能・マネジメント機能を整備していく。また、社長のビジョンを組織で具現化するための経営企画機能を設計していき、社長の判断基準を組織や機能に移植していくことがポイントである。

 

第1ステップは、グループ理念体系の再定義である。

 

①グループの社会的使命や存在意義であるグループミッション

 

②グループが長期的にありたい姿としてのグループビジョン

 

③グループの共有の価値観であるグループバリュー

 

この理念体系はグループを定義するものであり、グループ全体を包括したものに昇華させる必要がある。社長の思いをグループの理念体系として可視化し、組織に共有することから始まるのである。

 

第2ステップでは、トップが担っているガバナンス機能を経営システムへ移管していく。ワンマン経営では全ての情報がトップに集約され、トップが判断し、マネジメント・コントロールもトップ主体で遂行されるため、まずは運用レベルの決裁権限を幹部メンバーへ委譲することを前提とした仕組みに変更していく。

 

この際、ワンマン経営者は、自身と判断基準が一致しなくなるのではないかと不安に思うことは少なくない。そのため、トップの判断基準を「経営者憲章」として可視化することも重要である。

 

 

【図表1】グループ経営システムチェック項目(導入段階・初期段階)

出所:タナベ経営作成

 

 

 

グループ経営システム初期段階
~スタッフの充実とプラットフォーム化~

 

ワンマン型意思決定スタイルから組織経営へと移行していき、役員・幹部の意見を交えた経営判断に基づいて社長が意思決定を行う、いわゆる「参画型意思決定スタイル」へ進化したら、次はグループ経営システムの初期段階として「スタッフの充実とグループ経営システムのプラットフォーム化」をコンセプトに体制を構築していくことになる。

 

初期段階では、これまでの延長線ではなく、新たな経営システムの仕組み・やり方を導入することになる。この段階での最大のネックは、「推進する人材の不足」であることが多い。人材不足になると、経営企画機能・ガバナンス機能・マネジメント機能において推進したい内容と、できることの間にギャップが生まれてしまう。

 

このネックを解消するポイントは、「専任化」「人員補充」「仕組み化」の3点である。

 

現状を踏まえ、強化すべき業務に対して専任担当者を配置し、各業務のプロフェッショナル化を図る。担当者には、グループ経営システムとして、グループのこれまでの経営システムをアップデートすることが求められる。

 

とはいえ、新しいことへのチャレンジとなるため、安易に兼任で担当させてしまうとどちらの業務も中途半端になり、うまく機能しない。ただ、重点業務に既存人員を当てはめていくと、どうしても人材不足に直面する。そのため、どのような業務を任せる人材が不足するのかを明確にし、人員補充を進めることが重要になる。

 

多くの企業において、本社人員は欠員に対して募集するというケースがまだまだ多い。しかしながら、当社が提唱しているグループ経営システムを推進するグループ本社人員は、グループの成長と安定を実現するコアパーソンである。人員補充なくして、推進はできないと言っても過言ではない。

 

スタッフの専任化・補充を進めた後に、仕組み化を進める。つまり、運用のルール、マニュアル、チェックリストをつくるなど、「特定の誰か」しかできないことを、「誰でも」できるようにするという着眼点で進めていく。また、シェアードサービスについては、グループの間接業務を可視化し、業務プロセスの標準化を前提にグループ内の業務を受託できる体制を整える。

 

 

「真のグループ経営」で競争力を高める

 

グループ経営システム推進段階
~人に依存しないプラットフォームの厳格運用~

 

グループ経営がさらに進んでいくと、「分権型の意思決定スタイル」が定着する。この段階のグループ経営システム構築コンセプトは「人に依存しないグループ経営システムプラットフォームの厳格運用」である。

 

初期段階では、専任化する・補充することで、人に依存してでもまずはプラットフォームとして立ち上げることを優先させた。だが、この段階では、担当部門・チームがプラットフォームとして専門価値を発揮している状態をつくらなければならない。

 

この段階で重点的に強化すべき機能は、グループ経営企画機能とグループガバナンス機能である。経営企画機能としては、M&Aを含む成長戦略の設計・評価・支援、デジタル戦略検討、マーケティング、ブランディング、デザイン経営などの強化を図り、グループ成長の中枢機能として進化させていくことが重要になる。

 

ガバナンス機能としては、コーポレートガバナンスポリシーの可視化、事業会社への監査体制の整備、コンプライアンス推進体制の強化など、健全な企業経営を推進するための社内管理体制を整備していく。併せてシェアードサービス機能の効率化・専門化を図り、費用対効果を最大化させることも欠かせない。

 

【図表2】グループ経営システムチェック項目(推進段階・発展段階)

出所:タナベ経営作成

 

グループ経営システム発展段階
~上場企業レベルのプラットフォームの運用~

 

グループ経営システム構築の最終段階は、経営を監視するコーポレートガバナンスの仕組みをつくることである。上場する・しないにかかわらず、「上場企業レベルのグループ経営システムプラットフォームの運用」をコンセプトに整備を図る。

 

特にポイントとなるのは、コーポレートガバナンス・コードやデジタルガバナンス・コードの原則に基づく運用状況のフィードバックや適切な情報開示、役員会監査・取締役監査体制整備など、経営にけん制がかかる状態を整えることである。各段階のグループ経営システム構築のコンセプトとポイントを参考に、複数の企業がグループとして活動することにより、競争力を高める経営スタイルである「真のグループ経営」を推進してほしい。

 

 

 

 

グループ経営システム構築コンサルティング

グループ共通の価値判断基準に沿ったビジョンマネジメントシステムを確立し、経営機能全体のバランスを考慮した経営インフラを構築します。

 

 

 

 

Profile
浜岡 裕明Hiroaki Hamaoka
タナベ経営 経営コンサルティング本部 ファンクションコンサルティング大阪本部 本部長代理。2006年タナベ経営入社。経営者の志を受け止めるコンサルティングスタイルで、ホールディング設立支援・グループ経営システム構築・事業承継計画策定・企業再生など経営機能別コンサルティングに定評がある。組織経営体制を目指した経営システムの構築、後継者・経営幹部育成を多数経験している。ビジネス・ブレークスルー大学大学院(経営学修士)修了。
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