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【特集】

建設テック

「Construction(建設)×Technology(技術)」の融合で、建設業の生産性向上と技術革新を図る動きが活発だ。AI 活用やドローン 3D測量、XRなどの最新技術を建設現場に全面導入し、土木・建築・設計の常識を覆しつつある事例を紹介する。
メソッド2020.01.31

建設業が勝ち残るナンバーワン戦略~ICT型モデルの展開~:竹内 建一郎

「働き方改革」は建設業に何をもたらすか

 

建設業は他業種に比べ、時間外労働が多い。こうした実態を考慮し、建設業では2024年4月から「働き方改革関連法」(2019年4月施行)が適用される(5年の猶予がある)※2。ただ、就業者数の減少、高齢化、採用難といった現状を踏まえると、それでもなお法律と現状のギャップは相当大きい、というのが建築・土木会社の経営者(従事者)の実感だろう。ここで重要なのは、「働き方改革」を単なる長時間労働の削減ではなく、「生産性向上=付加価値向上」を実現するイノベーションを合わせて実施するものと捉えることである。

 

働き方改革関連法(時間外労働規制の見直し)にのっとり、時間外労働は原則として月45時間(年360時間)に抑制していかなければならない。建設業界において、この水準に到達できていない企業はまだ多いのが現状と思われるが、日本建設業連合会の改善目標(2019~2021年度:月80時間・年間960時間、2022~2023年度:月70時間・年間840時間)も参考に、少しずつでも取り組んでいくことが求められる。

 

時間外労働の削減に向けては、業務の受け手である建設業界の取り組みとともに、発注者である施主の取り組みが欠かせない。実際、国土交通省のガイドライン※3で「適正工期」「適正価格」「BIM・CIM活用」が明示されたことで、施主の仕事の出し方も変わりつつある(ただし具体的な意識・実行度合いについては、施主によってばらつきがある)。

 

業務の受け手である建築・土木会社が実施すべきポイントとしては、「むり・むだ・むらの排除」「仕事のシェア(女性活躍・全員活躍)」「ICTの活用」により、生産性を高めていくことだろう。

 

また、協力業者(パートナー企業)との関係については、日給から月給への契約改定、人材の多能工化、グループネットワーク力の強化とM&A(合併・買収)も含めた連携こそが目指すべき方向性と言える。

 

※2 ただし建設コンサルタント、建築設計など建設サービス業は一般企業と同様に扱われ、大企業(資本金5000万円超で従業員数100人超)が2019年4月1日から、それ以外の中小企業は2020年4月1日から適用される

※3 働き方改革関連法による改正労働基準法に基づき、5年の猶予期間後、建設業に時間外労働の罰則付き上限規制が適用される。ガイドラインは、猶予期間中においても受注者・発注者が相互の理解と協力のもとに取り組むべき事項について、指針として策定されたもの

 

 

 

 

ICT型モデルの実例

 

世界における先端技術の市場成長は著しい。ICT技術は今後の応用ステージで一気に進むことを考慮すれば、技術面で取り残されないためにも、ICT型モデルについて今から少しずつでもアプローチしておくことが必須と言えよう。

 

さらに、生産年齢人口は2050年までに約30%減少する(2018年:7516万人→2050年:5275万人)。ICT活用を例えるなら、「100人で取り組んだ仕事を70人で行う」イメージだろう。また、導入当初から「コスト削減」を見込むのではなく、「労務費を経費へ置き換える」(労務費を経費でカバーする)イメージで取り組む必要がある。

 

1.ICT土木

 

土工工事の場合、ICT技術の活用により、例えば、ドローンなどによる短時間での面的(高密度)な3次元(3D)測量、3D測量データによる設計・施工計画、ICT建設機械による施工、検査の省力化などが可能になる。

 

実際、ICT土工を活用することで、丁張りの短縮、精度向上、自動制御向上、遠隔操作、品質管理技術向上などのメリットがあるという。

 

2.タイムラプス・ウエアラブルカメラの活用

 

各現場にカメラを設置することで、本社、施主、建設会社などで現場の状態を遠隔でもタイムリーに確認できる。これにより、効率的で質の高い管理、現場を見ながら顧客とタイムリーな打ち合わせ、現場意識の向上(品質・安全)などの効果が得られる。

 

実際、ある中堅規模の建設会社では、全現場にカメラを設置したことで、業務の効率アップ・スピード向上につながり、生産性が従来と比べて著しく向上したという。

 

また、別の建設会社では、前日の現場撮影データをコマ送りにして見ながら全員で振り返り、安全・品質向上へのフィードバック、改善点などを話し合う活動を続けている。この取り組みによって、品質・安全面で今まで以上にレベルアップしているという。このように、成果につなげる最大のポイントはデータの活用にある。

 

3.建築×VR

 

新潟県三条市の小柳建設では、VR(仮想現実)への取り組みを進めている。VRだと、視覚・感覚的にイメージができ、施工段階では3Dで危険箇所などを事前に把握できる。同社では日本マイクロソフトと連携して建設現場でのVR活用を推進。こうした外部の専門会社とのアライアンス(事業提携)、そして自社内での専門部門の設置といった進め方も重要なポイントとなっている。

 

4.教育×ICT 企業内アカデミー

 

タナベ経営は、企業内大学「FCCアカデミー」の設立を推進している。

 

FCCアカデミーは、“デジタル版OJT(職場内教育)”を取り入れた人材育成システム。リアルな場での講義と併せて、自社の社員が講師を務めるオリジナル動画により現場業務のノウハウを共有できる。タナベ経営はこれまでに87社のアカデミー開設を支援している(2019年11月時点)。

 

アカデミーへ取り組む建設会社は多く、実施企業全体のうち、2割を建設業が占める。アカデミーには、職場によるばらつきのない教育の実施が可能な上、一人前に育つまで10年かかっていたところを、教育の仕組み化により3年で育てることができる。さらに採用においてもブランディング効果を発揮するなどのメリットがある(アカデミーの詳細については69、70ページ参照)。

 

 

ICT型モデル推進のポイント

 

「作業の50%はロボットへ」「管理の50%は遠隔で」――。ある大手ゼネコンで使われる言葉にも表れている通り、ICTの活用は今後ますます重要になっている。AIを使った無人化施工、溶接ロボット、無人搬送、多能工化ロボ、スマート現場事務所など、建設業界においてICT化は今後どんどん増えていくだろう。ICT型モデルを推進する上で、ポイントは三つある。

 

1.できることからやってみる

 

自社にとってICTを活用できる業務は何か、自社内に残すべきノウハウは何かを検討した上で、ICT化を進める。

 

2.コストを抑える工夫をする

 

中堅・中小企業にとって、ICT化に伴うコストを抑える工夫は必須。もしくは、「労務費を経費へ置き換える」考えで実施すべきである。

 

3.どこでICTを使うかを決める

 

工程全体についてトライアルした上で、あらためてどこでICTを使うべきか検討すると、ICT化すべきポイントが明確になる。

 

自社にとって最適なICT型モデルへのアプローチを、ぜひとも検討していただきたい。

 

 

 

 

建設ソリューション成長戦略研究会

「ポスト2020以降の事業戦略を考える」「ドメイン特化ブランディングモデル」「建設サービス化・PFIコンセッションモデル」など、テーマに沿った事業モデルを実践する企業の生の声から学び、成長の突破口を発見できます。

 

 

 

 

 

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Profile
竹内 建一郎Kenichiro Takeuchi
タナベ経営 経営コンサルティング本部 大阪ファンクションコンサルティング本部長。大手メーカーで商品開発の生産マネジメントに携わった経験を生かし、経営的視点による開発・生産戦略構築から現場改善まで、多くの実績を上げている。モットーは現場・現実・現品の「三現主義」。
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