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【特集】

成長M&A

かつてM&Aといえば「乗っ取り」「身売り」など暗いイメージが付きまとったが、いまや多くの企業が持続的成長を図る手段として選択する時代になった。後継者難、本業の競争力低下、早期の新規事業開発など、一筋縄ではいかない経営課題を最短距離で解決したM&A事例をリポートする。
メソッド2019.12.27

成長戦略を実現するためのM&A:丹尾 渉

M&A実行後

 

M&Aはプレフェーズから実行フェーズへと移り、最終的に譲渡契約書を締結したら完了かというとそうではない。最終合意はまだ始まりにすぎない。M&Aの最終的な成果は「シナジーの創出=成長」で測られなければならない。この部分がとにかく困難である。買収が完了して、初めて知る事実の方が圧倒的に多いからである。(【図表3】)

 

【図表3】PMI(買収後の統合作業)のステップ

 

 

その点では、デューデリジェンスにはリスクを緩和する効果があるが、リスクを完全に取り除くものではない。デューデリジェンスは相手方が出してきた情報をもとに精査を行うものであり、相手方が提示してこない情報については、基本的にアクセスすることが難しい。

 

最終合意後の統合作業(PMI)が最も難しいフェーズである。統合作業では、ヒト・モノ・カネの三つを自社の基準に合わせていかなければならないが、異なる風土の社員がいきなり同じ考え方をするだろうか。また、異なる人事制度を運用していた企業をいきなり一つにしたときに社員の間に納得感は生まれるだろうか。一足飛びに合意を得ることは難しいのが実情だ。

 

実際、契約書のまき直しや決裁フローの整備など、社員の感情が絡まない場面での統合作業でも、「従来の業務の慣習が崩れる」として相手方社員から抵抗を受ける場合がある。従って、社員の感情や組織の風土など、目に見えない要素をいかにして一つにしていくかが重要だ。同時に、事業上で当初予定していたシナジーが出るかどうかを売上高・利益の上昇やシェアの拡大で客観的に測るのである。

 

統合作業の最中に、ブリヂストンのように何度も経営危機にさらされる場合もあるが、そのたびに、目的に立ち返り、事業をどのようにしていくべきかを考えなければならない。

 

統合作業はチームビルディングに始まり、長期的目線で展開する施策と、短期的に効果を上げなければならない施策に分けられる。期間としては、最終合意後からおよそ100日間で今後の方針を立てねばならない。時間との勝負である。

 

中堅・中小企業には、買収前の企業風土や制度をそのまま継続することで、社員に生じる違和感や不満を和らげ、円滑にM&Aの効果を引き出そうとする方法も見受けられる。このような方法が有効な場合ももちろんある。ただし、その場合でも業務に関するPMIは少なからず必要になってくるはずだ。

 

PMIの過程でうまく新しい企業の風土またはやり方に順応させ、シナジーを生み出すことがM&Aの成功と呼べるのである。

 

M&Aは実行フェーズに目が向きがちであるが、実際は、戦略の構築と実行後の統合フェーズの中で双方の定量的指標や定性的な目標が達成できたかどうかが問われる。仮に想定したシナジーを生み出すことができない場合、双方が不幸になることもある。M&Aを成長戦略に取り込み、「時間とノウハウ」を買うことにより変化の速い時代に対応することが必要だ。まだM&Aを実施したことがなく、選択肢の一つとして考えている企業は、一歩を踏み出していただきたい。

 

 

『成長M&A』実践研究会

M&Aの経験が豊富な会社の事例研究を通じて、よりM&Aの成功へ近づくノウハウを学びます。さらに、M&Aの譲渡企業・譲受企業の両社の声が聞ける対談も実施。全6回のカリキュラムで戦略立案~PMIまで体感できる内容です。

 

 

 

 

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Profile
丹尾 渉Wataru Nio
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長代理。クライアントの成長に対する「真摯」な姿勢と、ビジョン実現へのステップを着実に進める「丁寧」さを持ち味とし、財務戦略を中心としたコンサルティングで活躍中。決算数値を企業改革の宝と捉える着眼で、共に成功事例を生み出し、業績が上がる体質を作ることを信条としている。
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