顧客の価値観を先取りする
「未来型アパレルビジネス」の創造
森田 裕介
タナベ経営 経営コンサルティング本部 部長 戦略コンサルタント
森田 裕介
Yusuke Morita
大手アパレルSPA企業での経験を生かし、小売業の事業戦略構築、出店戦略、店舗改革を得意とする。理論だけでなく、現場の意見に基づく戦略構築から実行まで、顧客と一体となった実践的なコンサルティングを展開。「お客さまに喜んでいただけるまで妥協しない」をモットーに、業績向上を図っている。
【図表2】
アパレルビジネスモデルにおけるイノベーションの着眼点
1.マーケットサイズの縮小
経済産業省の報告書(「繊維産業の課題と経済産業省の取組」、2018年6月)によると、アパレルの国内市場規模はバブル期(1991年)の約15兆円をピークに、2016年には約10兆円と25年間で3割も縮小したという。
一方、アパレル国内供給量は同期間で約20億点から約40億点へと倍増している。市場規模縮小・国内供給量拡大という2つが意味することは、直近の衣料品購入単価が1991年に比べて6割前後の水準まで下落しているということだ。
アパレルの総小売市場規模(矢野経済研究所調べ)を見ると、2010年の8.9兆円から2016年で9.2兆円と拡大基調にあるが、これはユニクロ(ファーストリテイリング)やしまむらをはじめとする大手専門店チェーンが業績を伸ばしただけであり、中堅・中小企業はその恩恵を受けていない。
1世帯当たりの「被服及び履物」の年間消費支出額(総務省「家計調査」、農林漁家世帯を除く2人以上の世帯)も、1991年の約30万円から2016年は約14万円と半減した。消費マインドの低下に歯止めがかからない状況である。
2.国内メーカーの存在価値の低下
前述した経済産業省の報告書から、アパレルの国内生産の状況を見てみよう。国内繊維産業の事業所数と製造品出荷額の推移を見ると、2015年時点で、1991年の約4分の1の規模に減少している。一方、国内アパレル市場における輸入浸透率は上昇を続けており、2017年には97.6%まで増加した。海外生産へのシフトにより、いまやアパレルの国内生産比率は3%を割り込む水準となっている。
それに伴い、多くの国内メーカーが淘汰され、アパレル業界においては日本のものづくりの良さが失われつつある。また、生き残った国内メーカーにおいても、海外生産と同水準を求められ、多品種小ロットや短納期対応に迫られるといった多くの課題を抱えている。
3.低収益構造
アパレル業界の特性の一つとして挙げられるのが、「低収益構造」である。これは近年、価格競争も相まって、その傾向がますます顕著である。帝国データバンクの調査(「アパレル関連企業の経営実態調査」、2017年10月)によると、アパレル関連企業の2016年度の売上高経常利益率(平均)は1.24%。このうち卸売が1.5%、小売に至っては0.6%と極めて低い。
これまで述べてきたように、アパレル業界は伸び悩みが続く成熟期にある。加えて【図表1】に示す課題を抱えており、これらの解決とともに抜本的なビジネスモデルイノベーションにかじを切る必要がある。