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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
2019.02.28

「プラットフォーマー」の世界:村上 幸一

私たちの日常生活は、米西海岸に囲まれている

 

 

朝起きて、「iPhone」でGoogleにアクセスして今日の予定とニュースをチェック。通勤途中で買った「コーヒーフラペチーノR」を片手に出社し、ノートパソコンの「EliteBook」を起動させる。Excelで新規プロジェクト予算を試算し、営業管理ツールの「SalesCloud」で顧客情報を確認。ランチタイムにFacebookやTwitterで友人の近況を知り「いいね!」ボタンをクリック。仕事を終えて帰宅するとAmazonで注文したスニーカー「Air Max」が届いていた。リビングではテレビでYouTubeを見る小学生の息子が、妻から「いいかげんにしなさい」と注意されている――。

 

どこでも見られるような、ごく一般的な日常生活の風景だろう。この文中に11の企業が登場している。記載順に挙げると、アップル、グーグル、スターバックス、ヒューレット・パッカード、マイクロソフト、セールスフォース・ドットコム、フェイスブック、ツイッター、アマゾン・ドット・コム、ナイキ、ユーチューブ(グーグル子会社)だ。

 

いずれも米西海岸(シアトル、サンフランシスコ、シリコンバレー)に本社を構えるリーディングカンパニーである。持ち物の違いや利用の程度の差はあれ、日本人の私たちでさえ、これらの企業と無縁では生活ができない。特にアマゾンは世界トップシェアを誇るクラウドコンピューティング(AWS:アマゾン・ウェブ・サービス)を有しており、アマゾンから直接商品を購入しなくても、なにかしらの形で世話になっているケースが多い。

 

プラットフォームというビジネスモデル

 

 

中でも、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンの4社は、頭文字をとって「GAFA」と呼ばれ、世界に圧倒的な影響力を及ぼしている。これにマイクロソフトを加えた5社(GAFMA)の時価総額合計は、ロシアのGDP(国内総生産)を上回るといわれる。ロシアのGDPは世界11位(2017年)。民間企業5社だけで、世界GDPランキングにトップ10入りする可能性さえある。

 

このうちGAFAの共通点は、プラットフォームをビジネスモデルの核としている「プラットフォーマー」であるという点だ。プラットフォームとは、オペレーティングシステムやハードウエアなどを動作させるための基本的な設定や、環境などの基礎部分を意味する。ビジネスにおけるプラットフォームという用語も、ここから派生したものである。つまり商取引を行う場と、そのルールや基盤を設定するビジネスモデルとなる。

 

こう書くと最先端のように感じられるが、実は昔からあるビジネスモデルだ。商品や製品、あるいは情報やコンテンツなどを提供する売り手側と、その多様な品ぞろえを期待して来店する買い手側をつなぐ場がプラットフォームだと考えれば、青果市場やデパート、ショッピングモールなどもプラットフォーマーである。

 

従来から存在するプラットフォームが、強烈な収益力を誇るビジネスモデルとなったのは、ITの力による。従来のプラットフォームはリアルな場所であり、空間と地域による制限があったが、IT化によってそれがなくなり、極論すれば、無限の広がりを持つようになったのだ。

 

 

 

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プラットフォーマー成功の鍵

 

一言でプラットフォームと言っても、そのマネタイズ(収益事業化)モデルは多様である。供給サイドと消費サイドの両方から課金するモデルもあれば、片方から料金を得るモデルもある。また、両サイドへの課金を行わずに、第三者から広告料を得るモデルもある。

 

いずれにせよ、全てのプラットフォームモデルに共通している絶対的な成功の鍵がある。それは「情報の量と質」だ。人々がそのプラットフォームを訪問(利用)しようとする理由は、そこに行けば自分の探している情報やモノが存在しているからであり、そこに人が集まるからこそ、供給者も参加する。供給者が増えれば、情報やモノの量が増大するため、またそこへ消費者が集まってくるという、好循環サイクルが発生する。

 

この好循環サイクルを維持すれば、自然に、自発的にそのプラットフォームへの参加者は増えていく。逆に、情報の量や質が低下する、あるいは他のプラットフォームがそれを上回るようになれば、悪循環サイクルに陥って瞬く間に参加者が減少していく。極論すればナンバーワンでなければ生き残れないモデルだ。従って、ナンバーワンを目指して各社が競って魅力的なプラットフォーム作りに励んでいる。

 

一度、ナンバーワンとしてのポジションを確立すれば、好循環が生まれて、その地位は盤石になりやすい。そこに、プラットフォーマーの圧倒的な力が生まれる。

 

そのプラットフォームへ参加するためには、そこで定められた“ルール”に従わなければならない。そのルールは、プラットフォーマーが自由に設定できる。

 

つまり、プラットフォーマーがルーラー(Ruler:支配者)としての圧倒的な力を持つことになり、自社の収益最大化を図ることができるというわけだ。

 

 

日本でも続出するプラットフォーマーたち

 

その秀逸なビジネスモデルと圧倒的な収益力から、世界各国でプラットフォーマーが誕生し、覇権を争いながら成長している。日本でもあらゆる業界でプラットフォーム・ビジネスが生まれている。

 

例えば、小売業(電子商取引)の楽天、フリーランス人材(クラウドソーシング)のランサーズ、資金調達(クラウドファンディング)のマクアケやReadyfor、外食のぐるなびや食べログ、アパレルのZOZO、フリーマーケット(フリマアプリ)のメルカリ、ネットオークションの「ヤフオク!」(ヤフー)、レシピ情報のクックパッド、婚活支援のIBJ、BtoB-EC(企業間電子商取引)のインフォマート、製造業マッチングのイプロスなど、枚挙にいとまがない。今後もさまざまな分野で新たなプラットフォーマーがスタートアップしていくだろう。

 

ここで興味深いのが、成功しているプラットフォーマーのほぼ全てが新興企業ということである。魅力的なビジネスモデルであるにもかかわらず、豊富な経営資源を有する大企業での成功事例はほとんどない。これはイノベーションの困難さを示唆していると同時に、全ての人にプラットフォーマーへの挑戦権があると言えるだろう。

Profile
村上 幸一Koichi Murakami
タナベ経営 経営コンサルティング本部 副本部長。ベンチャーキャピタルにおいて投資先企業の戦略立案・マーケティング・フィージビリティースタディーなど多角的な業務を経験。タナベ経営に入社後も豊富な経験をもとに、マーケティングを軸とした経営戦略の立案、ビジネスモデルの再設計、組織風土改革など、攻守のバランスを重視したコンサルティングを実施。高収益を誇る優秀企業の事例をもとにクライアントを指導している。中小企業診断士。
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