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タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
2018.10.31

「人生100年時代」の成長ドメイン開拓:ヘルスケアビジネス成長戦略研究会

日本人が感じる“幸福度”は主要先進国で「最低」

 

国連は「世界幸福デー」の3月20日に合わせ、世界156カ国を対象にした幸福度ランキングを毎年発表する。2018年のランキングでは、世界で最も幸福な国に北欧のフィンランドが選ばれた。上位5カ国のうち4カ国が北欧の国であった。ちなみに、日本は2017年から3つ順位を落として「54位」。主要先進国(G7)では断トツの最下位だ。

 

超長寿社会が到来し、「人生100年時代」が現実のものになろうとしている現代にあって、この幸福度ランキングが意味するところは何か。それは「今の延長線の人生設計では、100年もの間、不幸せな人生・生活を強いられる」ということである。

 

では、世界的に見て豊かなはずの日本が、なぜ主要先進国では幸福度が最低なのか。類推するに、日本は高齢先進国たるべき社会の成熟度が低いからではなかろうか。高齢先進国の先頭を走る北欧諸国は、「個人の自由度が高く、社会とのつながりの中で自己肯定感や自尊感情を持ち、人生を主体的に生きることができる」社会を構築している。(【図表1】)

 

【図表1】 北欧諸国の特徴(一例)
201811_01_method_01

 

日本は、わずか1世紀(100年)の間に急激な成長を遂げ、いまや先進成熟国となった。総人口は約7000万人増加※1し、平均寿命は約40歳延びた※2。1人当たりGDP(国内総生産)は約20倍に拡大※3した。つまり、この100年間に起きた急激な変化に対し、社会の制度・会社の仕組みの成熟度の低さがさまざまな形でいま、表面化しているのだ。

 

※1 1918年:5474万人
→2018年:1億2649万人。1918年人口は厚生労働省「平成30年我が国の人口動態」、2018年人口(3月1日現在)は総務省統計局より
※2 男42.06歳/女43.20歳(1921-1925年)
→男81.09歳/女87.26歳(2017年)、厚生労働省「第22回生命表(完全生命表)」「平成29年簡易生命表」より
※3 アンガス・マディソン推計による比較

 

人口維持が目標の社会にあって、住宅ローン貸付残高が増加するのは当たり前なのだろうか。花粉症が人口の40%に達しているのに1600万本のスギを毎年植林して花粉症がなくなるだろうか。超高齢化で医療費の増大が問題視されているが、そもそも元気だから長寿ではないのか。世の中の実態に制度や仕組みが追い付いていないのである。

 

 

人生100年時代は、「QOL」こそ成長市場

 

少子高齢化と人生100年時代は、「欲しいものがない」という“飽和”と戦う時代である。内閣府の「国民生活に関する世論調査(2018年6月調査)」を見ると、「心の豊かさを重視する」と答えた人(63.1%)は、「物の豊かさを重視する」と答えた人(31.0%)の2倍に上っている。

 

このような時代のキーワードは、「QOL(生活の質=自己実現・自己成長)」である。「物質的価値」から幸福度を算出する時代はすでに終わっている。極論すれば、「GDPではなく、QOLが社会の目標」となる時代が来るかもしれない。

 

人生100年時代は、人々の高次の欲求(自己実現・成長欲求)と真摯に向き合う時代なのだ。当然、価値観の数だけ顧客の数も分かれていき(顧客の個客化)、欲求はより専門化する。つまり、モノが実現してくれる「コト」(QOLの中身)の追求、本物ではなく「本質」の追求が不可欠になるのである。

 

 

ライザップグループに学ぶQOLマーケット攻略

 

【図表2】は、「結果にコミットする」という強烈なメッセージと、それを体現化したテレビコマーシャルで抜群の認知度を誇るRIZAPグループ(東京都新宿区)の事業ドメインの捉え方である。「自己投資産業でグローバルNo.1ブランドとなる」というビジョンを掲げ、変わりたい思いはあるが途中で挫折するケースが大半の「3日坊主市場」、すなわちイノベーションを必要としている「自己投資産業(国内7兆円、グローバル50兆円)」を事業ドメインとしている。

 

【図表2】 ライザップグループの事業ドメイン

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出所:RIZAPグループ「個人投資家向けオンライン会社説明会」(2017年9月25日)資料より作成

 

【図表3】はRIZAPグループ(以降、ライザップ)が捉えている自己投資産業の位置付けだ。量的な豊かさを実現し、モノ・情報が自由に手に入る成熟社会・飽和社会のキーワードは「質」である。マズローの5段階欲求にある「尊厳・評価欲求」以下の、「欠乏欲求」を満たすためのコモディティーサービスでは、もはや人は幸せを感じない。人それぞれの自己実現・QOLの向上にこそ、人はお金を投じる。

 

ライザップは、「『人は変われる』を証明する」を経営の根幹に据えている企業である。また、事業ドメインを自己実現領域に定めている。故に欠乏欲求を充足するための、コモディティー(大量消費され、代えの利く商品)・生活必需品領域をビジネスの対象外として明確に区別。高次の成長欲求=自己投資産業に事業領域を定め、「変わるための事業」を多角化している。

つまり、「やりきらせる」「高次の成長欲求(QOL)」はコモディティー化しないのである。

 

【図表3】 ライザップグループの事業ドメイン自己投資産業の市場規模

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出所:RIZAPグループ決算説明会資料(2019年3月期第1四半期)よりタナベ経営作成

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