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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
2018.09.28

未来のネットワークをいかに構築していくか:経営コンサルティング本部

物流を止めてはならない

 

まず、先般の「平成30年7月豪雨」で被害を受けられた方々に、心よりお見舞い申し上げたい。私は広島県内に住んでおり、クライアントやその社員・ご家族が大変な思いをされたことを間近で共有し、本当に心が痛んだ。特に交通網の打撃を受けて物が圧倒的に不足した地域では、生活さえままならない状況であった。企業の存在価値は世の中を豊かにすることにあるが、物流は世の中の根幹をなすものだと、身をもって実感した。

 

長期的な視点で見ると、BtoC(企業対消費者間取引)の発送量増加やドライバーの減少は、継続的な物流の確保を困難にする可能性がある。将来的には、現在と同じコストで同じ便益を得ることができなくなるエリアも発生するだろう。これらの課題は企業単体で解決できるものではない。物流に携わる全てのプレーヤーの協力が必要となる。

 

誰もが全体を“正確”に理解できていない

 

先日、タナベ経営が主催する戦略ロジスティクス研究会において、参加者に「ビールゲーム」を体験してもらった。マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院の教授グループが開発したシミュレーションゲームで、サプライチェーンにおける「ブルウィップ現象」(川下の需要変動が川上にいくほど増幅すること)を実感することが目的だ。

 

具体的なゲーム内容は、メーカー、1次卸、2次卸、小売店の役割を担う4人が1組のチームとなり、発注と出荷を繰り返す。実需が見えない中で、30週間における累計の在庫費用と受注残(機会ロス)を計算し、最もロスが少なかったチームが勝利する。

 

2時間程度であったが、大いに盛り上がった。一方で、「物流のプロ」が集まりながら、在庫と受注残のロスは各自が予測していた以上に多くなった。種明かしになるので詳細は控えるが、このゲームの核心となる実需の動きを公表した時の、受講生らのあぜんとした表情が非常に印象的だった。

 

なぜスコアが良くなかったのか。それは「各自が個別最適を目指せば目指すほど、全体の利益は損なわれる」からである。さまざまな階層の参加者がいたが、部門長は「自部門最適が全社最適を阻害する」ことを、経営者は「自社最適がサプライチェーンの全体最適を阻害する」ことを学ぶことができた。

 

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自分の領域“だけ”では限界がある

 

物流は極めて複雑だ。超大手から個人事業主まで多数のプレーヤーが存在し、製造・卸・小売りの各業態と消費者が複雑につながり、そのロット、納期、商習慣、管理システムも異なる。企業は自社最適で自社の利益を真摯に追っている。しかし、それが全体の中では阻害要因になり得るのだ。

 

例えば、メーカーが製品を保管する自社倉庫の「都合」に合わせて設定したパレットとロット数が、トラックの積載効率や配送センターの「都合」を考えていない、ということがある。サプライチェーンの各所で発生する無駄やロスは、最終的には消費者へのコスト負担となるだけでなく、各プレーヤーの収益にも影響を及ぼす。

 

多くの企業はこうした状況を理解できても、現状を変えることが難しい。その一因は、「自分以外はよく分からない」からである。製造部員は営業部員のやっていることがよく分からないため、全社最適ができない。卸はメーカーや小売店のやっていることがよく分からないので、サプライチェーンの全体最適ができない。自部門・自社だけの把握では限界がある。今後は他者(他社)を理解し、つながることがさらに重要となってくる。

 

具体的なネットワークづくりはどう行うのか

 

超大手企業は、システムや物理的な設備投資によって全体を統括することが可能である。だが、そのような選択肢がない中堅・中小企業は、どう外部とつながっていくのか。具体的な第一歩は「自社が何をしたいのか。それを成し遂げるためにどう外部に働き掛けるか」を明確にすることだ。

 

ある作業服・保護具商社は「工場の労災低減や生産性向上にワンストップで貢献したい」とミッションに掲げた。すると、ある社員はエンドユーザーにヒアリングを行い、「熱中症は意外に6 月が多い」事実をつかんだ。そしてメーカーに勉強会を開いてもらい、「ファン付き作業着が使えない場合は冷却ヘルメットが有効」であることを学んだ。このように、各社員がミッションに従ってサプライチェーンの上流・下流に自ら働き掛け、情報を集約していった。

 

結果、「5月に冷却ヘルメット在庫を確保し、拡販を行い、顧客の生産性向上を図ろう」作戦を実行し、大きな成果を出した(普段は言われた商品を納めるだけで企画の打ち出し自体が初めてだった)。顧客から、初夏での現場生産性が上がったと喜ばれ、メーカーからは適正価格で相当量を出荷できたと喜ばれた。自社においても企画の事前通知により、機会ロスや過剰在庫の発生もなかった。

この事例からの学びは次の通りである。

 

①誰も正解が分からない中で、自社なりの社会貢献ストーリーの仮説を組む

②その仮説をサプライチェーンの各プレーヤーに確認する(場合によってはエリア外の同業との協業も対象となる)

③仮説に沿ってビジネスモデル(商品・サービスや提供方法)を磨く

 

未来に向けたネットワークづくりの方向性は、自社の社会的使命に対して、どう外部を巻き込むかにある。

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