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2018.09.28

異業種に学ぶ、未来に向けた物流業界の人材育成:番匠 茂

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必要な“未来人材”を確保できるか

 

各種報道によると、東証1部上場企業の2018年3月期決算で、営業・経常・最終の全利益が過去最高を更新したという。また、民間調査機関の「労務行政研究所」の調べによると、東証1部上場127社の夏季賞与・一時金(ボーナス)が平均74万6105円(前年同期比2.4%増)となり、伸び率が4年ぶりに上向きに転じた。

 

しかし、楽観視ばかりもしていられない。大切なのは「どうなるか」という予測と、「どうあるか」という意志、そのために「どうするか」という対策だ。来年(2019年)の10月には、国内経済に大きなインパクトを与えるであろう消費増税が控えている。翌2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されるが、2023年をピークに世帯総数の減少が見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。

 

果たして、2020年以降の「祭りの後」がどうなるのか、世帯総数の減少で国内需要の縮小が懸念される2023年以降に自社はどうあるべきか、そのためにこれからどうするのか。おそらく大半の経営者・経営幹部が不安を感じていることだろう。

 

今も昔も、企業の業績や生き残りを左右するのは間違いなく「人」である。「人を得る者は栄え、人を失う者は滅ぶ」という格言通り、未来に備えて優秀な人材、必要な人材を自社は何人育成・確保することができるのか。これが今後の企業の命運を握ると言っても過言ではない。

 

 

同じ方法を取り続けても違う結果は出てこない

 

現在の物流業界は、人手不足が深刻である。特に、ベテラン社員への負担は増すばかりだ。とはいえ、単に残業時間の削減や休日数の増加に取り組むだけでは、人を集めることが難しい。しかも、若手を早く育成して、活躍人材に育てる社員教育も実施せねばならない。働き方だけでなく、学び方や育て方にも改革が求められる。

 

だが、物流業界を見ていると、その意識が希薄であるように私の目には映る。上司・先輩社員の意識が以前とそう変わっておらず、「今まで通りの学び方・育て方でいいだろう」「忙しいから新しいことは無理」「最近の若い連中ときたら……」などと考えており、従来と同じ取り組みを繰り返している。それでいて、今まで以上に活躍してくれる若手社員の登場を望んでいるのである。同じ方法を続けて、違う結果が出るはずはない。

 

 

早期育成の成功事例A社が進めた3ステップ

 

早期の人材育成で成功している異業種の企業事例を紹介しよう。

 

製造業のA社は毎年、新入社員を5~10名採用していたが、成長スピードが遅く、大きな課題となっていた。A社は技術に強みを持つ会社だが、仕事を懇切丁寧に教えるというよりも、昔ながらの「俺のやり方を盗め」というOJTが中心であった。社内では新入社員教育や資格取得研修など、一通りの研修は実施しているが、若手の成長スピードは上がらなかった。

 

そこで、「階層別・職種別のあるべき姿(能力規準)を明確にする」「あるべき姿を実現するために、どのような社内教育・資格教育などを実施するか明確にする」「その教育を実施し、成長スピードを上げる」という3段階での取り組みを実施した。順に紹介したい。

 

(1)第1ステップあるべき姿の明確化

まずは第1ステップである。A社には「社員に求める能力基準」がすでに存在していたものの、そもそも上司が知らないし、社員はもっと知らないという状態であった。若手社員は「とにかく頑張れ」と言われるだけで、何をどう頑張ればよいのかが明確にされていなかった。

そこでA社は、社内プロジェクトチームを編成し、階層別のあるべき姿を能力面、定量・定性面に分けてディスカッションし、明確にした。

 

(2)第2ステップ あるべき姿への到達手段

第2ステップでは、「あるべき姿」に到達するため、必要な社内教育・資格教育・取り組み内容を再整備した。例えば、若手社員の早期育成のために新規プロジェクトを立ち上げ、入社3年で一人前に育てるスケジュールと、必要な教育内容を細かに設定したのである。

また、多能工化を進める上で作業標準書や手順書が「分かりにくい」という問題が持ち上がった。そのため、若手にも分かりやすくするために作業標準書・手順書を動画化するプロジェクトも立ち上げた。

 

当初、ベテラン社員は「面倒だ」と非協力的な姿勢を見せていたが、作業標準書・手順書の動画をひと目見たところ、一気に協力的になった。理由は「今までは1から10まで教えないとダメだったが、動画を使えば6、もしくは7から10を教えれば済むので、自分が楽になる」とのことであった。

 

作業標準書・手順書を動画化したことで、人によって教え方が違うということもなくなり、結果として製品の品質が安定した。現在の若手社員は「YouTube世代」といわれ、文字や文章よりも動画でモノを覚える傾向がある。作業標準書・手順書を動画にすることで、作業を覚えるスピードは格段に上がった。

 

(3)第3ステップ 階層別人材開発体系の作成

第3ステップでは、階層別の人材開発体系を作成した。「いつ」「誰が」「どのような資料で」教育を行うかまで決めて実施している。また、作成した階層別の人材開発体系を学生の採用説明会で説明した。それが「この会社は社員を育てる仕組みがある」「教育制度がしっかりしている」と学生から評価され、新卒採用が順調に進むという善循環が生まれている。

 

インターネット通販が主流になったこともあり、現在、どの物流企業においても現場は多忙を極めている。確かに、新しい取り組みをする余裕がないことは理解できる。しかし、現在の取り組みが未来を創るということを考えれば、未来を犠牲にしてまで目先の問題を解決することに、どのような意義があるのだろうか。それよりも、未来を見据えて今、人材育成に取り組むべきではなかろうか。

つまるところ、「働き方改革」の根っこは「生産性改革」であり、「学び方改革」「育て方改革」でもある。今から未来に向けた人材育成に取り組んでほしい。

Profile
番匠 茂Shigeru Banjyo
タナベ経営 経営コンサルティング本部 支社長代理 チーフコンサルタント 戦略ロジスティクス研究会 コーディネーター。長年にわたる営業部門での経験を生かし、各企業の経営コンサルティング、幹部人材の育成などで活躍中。特にトップ・幹部と一体になった実践的な取り組みにより、クライアントへの熱い思いをベースに進化を実現。数多くの成長企業を支えている。
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