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2018.03.30

多様化する事業承継における
「変わらない」価値判断基準
“絶対性”を承継するファミリービジネス
中須 悟


2018年4月号
 
後継者選択の自由
 
日本は「長寿企業大国」と呼ばれ、世界の長寿企業の半数以上が日本に存在するといわれる。その理由として、日本には「家」を継ぐという習わしがあったからだという指摘がある。しかし今、その家を継ぐ習慣そのものが過渡期にあると言わざるを得ない。第2次世界大戦前の民法には「家族」という概念があった。家父長制の下、相続も、家督を継ぐ長男に一子相伝するのが原則であり、養子を入れてでも家を守らねばならなかった。
 
ところが、終戦後の民法改正で“家族”という概念がなくなり、それに代わって「親族」という言葉が使われるようになった。相続も一子相伝ではなく、法定相続分が定められ、子息・子女の世代へは均等に配分されるようになる。つまり戦後は、「長男が家を継ぐ」という習慣の法的根拠がなくなったのである。

 
一方、現在は事業承継のピーク期に差し掛かっている。事業承継は経営における節目であり、長期的な視点で今後の在り方を考える機会となる。まずは誰に経営をバトンタッチするのか決める必要があるが、その選択肢は多様化しているのが今のトレンドだ。一昔前まで、事業承継と言えばファミリーで引き継ぐパターンが大勢を占めたが、現在では減少傾向にあり、それに代わって社員の内部昇格や外部招へいによる承継が増加してきている。(【図表】)
 
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事業承継が多様化する背景には、先に述べた民法改正もあるが、事業承継のフェーズそのものが創業世代からの引き継ぎではなく、第二世代から第三世代へのバトンタッチである点も大きい。日本に現存する企業は戦後の創業が多く、それらの企業の多くがいま創業60~70周年を迎えている。30年を経営の節目とした場合、2回目の節目を迎えているのだ。創業世代と第二世代の経営者では、事業承継に対する価値観が異なる。創業者にとって企業は自身の人生を賭した存在であり、理念も強い。後継者も血を分けた子息・子女にするという発想になりがちである。だが、第二世代の経営者はより合理的に考え、最も優秀なリーダーにバトンタッチする発想である。子息・子女がいないケースも多いが、いたとしても後継者候補の一人として捉えるのである。
 
いま事業承継の当事者である第二世代経営者は、多様化する選択肢の中で、歴史的にも初めて“後継者選択の自由”を手にしたと言ってよいかもしれない。企業の長期的な成長発展のためにどうすればよいのか、過去の慣習や前例にとらわれることなく、ゼロベースで考えることができるのだ。
 
ただ、自由ほど悩ましいものもない。経営上、最も重要な判断を要するだけに、しっかりとした理念やビジョンを持ち、目先の利害ではなく、正しい価値判断基準を持って対応することが求められる。この世代の事業承継の巧拙が今後、日本における中堅・中小企業経営の道筋をつくるだけでなく、日本経済全体の動向を左右する重要な要素になり得るからである。
 
ファミリービジネスとして存続するのか? 社員に承継するのか? またはM&Aで譲渡するのか? 多様化する選択肢の中で正しい判断をするためには、メリット・デメリットだけで答えは出せない。絶対的な価値観が必要となるのである。
 
 
ファミリービジネスとは何か
 
最後に、ファミリービジネスにおける社員承継の事例を紹介したい。ファミリービジネスとは何かを示唆するエピソードである。
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ある中堅オーナー企業のA会長が、約半世紀にわたる務めを終えて退任した。齢90歳である。実質的な創業者として会社の成長をけん引してきたA会長も、ここ数年はめっきり憔悴して体調も崩したため、満を持しての退任となったのだ。
 
現在、経営の陣頭指揮を執っているのは、現場たたき上げのB社長。十数年前に社長の座をA会長から受け継ぎ、会社を力強く引っ張ってきた。B社長は体も声も大きく、創業経営者と言わんばかりの風格である。その父親も兄弟もみな経営者であり、“生まれながらの経営者家系”と聞く。事実、B社長は毎期、増収増益の経営を続け、慢性的な赤字部門を黒字化し、同社を経常利益率10%の体質に鍛え上げた。
 
そのB社長も間もなく80歳を迎え、次世代へのバトンタッチが必要な段階に入った。しかしながらオーナーのA会長には子どもがおらず、同社は今後、社員から社長を輩出していくしかない。B社長は就任以来、ずっと後継者の選任に頭を悩ませていたと言っても過言ではなく、事実、その候補者は二転三転し、なかなか腹落ちする結論を出すことができなかった。
 
そんなB社長が漏らした一言が象徴的である。「私はA会長の後ろ支えがあったから思い切り経営ができた。今後その支えがない中で経営していく後継者の大変さは、私の比ではない」
 
生まれながらにして経営者の資質を持ち、現場たたき上げの経験と実績を持つ辣腕社長ですら、創業家のバックボーンがなければ経営はできなかったというのである。
 
ここにファミリービジネスの本質がある。
 
創業家というのは会社が存在する理由そのものであり、“絶対的な”ものであるということだ。それに対しB社長は“相対的な”存在であるといえる。社員の中で能力が最も秀でていたから社長になったのであり、その打ち手も顧客ニーズに対して価値を提供する、前年比増収増益で会社を成長させる、赤字の部門があれば黒字にするなど、何をするにもそれは相対的に判断する次元なのだ。“相対的な存在”は、「絶対的な存在」がなければ、その価値を発揮することはできないのである。
 
経営は「不易流行」という。それは「絶対と相対」という表現に置き換えることもできる。今後、同社はその絶対的な存在を“創業者の理念”として言葉に残し、それを歴代社長が受け継ぎながら経営を展開していかなければならない。
 
それが長寿企業として存続する絶対条件となるのである。
 

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