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2018.01.31

Web・デジタルは高収益・生産性向上の切り札:Web・デジタルビジネス研究会

Web担当者任せにしていないか

 

アベノミクスや東京オリンピック・パラリンピック開催など、日本経済の基調は明るい。だが、実際の中堅・中小企業を取り巻く環境は厳しい。従来の顧客や商品・サービスに固執して収益が上がらない、また労働法規の規制強化による生産性向上など、課題は山積みである。(【図表1】)

 

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このような経営環境において、Web・デジタルの活用は有効である。Web・デジタルの活用方法は主に攻めと守りに分けられるが、それぞれを有効に活用することで自社のビジネスモデルを変え、収益を改革することが可能となる。

 

「攻めのデジタル」の目的は顧客を創造すること(顧客接点)である。有効な理由としては、「卸売業者がWebにより利益率の高い直販チャネルを構築することができる」「卸売業者がWebによりプッシュ型からプル型の新規開拓体制を構築することができる」「製造業者がWebにより営業担当者ゼロで売り上げ目標を達成することができる」などが挙げられる。

 

一方、「守りのデジタル」の目的は付加価値を高め、生産性を向上させること(バリューチェーン)。有効な理由としては、「サービス業者がCRM(顧客関係管理)により高付加価値サービスを提供することができる」「製造業者がSCM(サプライチェーン・マネジメント)により少人数で多品種小ロットの供給体制を構築することができる」「卸売業者がSCMによりコストパフォーマンスの高い商品を提供できる」などが挙げられる。

 

しかしながら、Web・デジタルの活用がうまくいっているという中堅・中小企業は多くない。その真因は、「Web・デジタルの活用は作業効率化の一環であるから、IT部門に任せておけばいい」と経営層が捉えているケースが圧倒的に多いことにある。

 

Web・デジタルは、いまや単なる作業効率を高める域を超え、ビジネスモデルそのものに大きなインパクトを与えるものであるため、経営者やラインの責任者が戦略的に考えていかねば成功し得ないのだ。

 

 

ビジネスモデルを変える方法

 

ここからは、具体的に、Web・デジタルでビジネスモデルを変える方法を示す。まず、【図表2】のような、ビジネスの全体を把握できる設計図を描くことが必要である。Web・デジタルの特性を理解して、それによって、どの要素がどのように変わり、最終的に収益としてどうなるのかを考える。

 

 

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大きな設計図を描いたら、さらに詳細な内容を検討する。【図表3】は、先述の全体の図(【図表2】)から、ターゲットと提供価値にフォーカスしたものである。ターゲットではペルソナ(抽象的なターゲットではなく具体的な“人物像”を設定する)、提供価値では、“モノ”ではなく「コト」が重要となる。続いて、顧客接点にフォーカスする。顧客接点は、次に挙げるような顧客購買プロセスにおいて、Web・デジタルを使っていかに顧客とコミュニケーションをとるかについて設計を行う。

 

プロセス ① 探索・選択

Web広告(リスティング、リターゲティング、SEOなど)、メール、SNSを活用した認知率の向上。

 

プロセス② 来店・注文

Webサイトの開設、アクセス解析に基づくサイトの最適化、コンテンツの充実、コンバージョン率の向上。

 

プロセス③ 代金支払い

Webサイト上への決済機能の設置(EC:インターネットコマース)、問い合わせ型による営業担当者フォロー。

 

プロセス④ 使用・消費

Webサイト上のサービス提供、コールセンターの対応による満足度向上。

 

プロセス⑤ アフター

Webサイト・コールセンターでの問い合わせ・相談対応、修理・交換対応。

 

プロセス⑥ リピート・紹介

会員システム、紹介特典、SNS・ブログなどによる顧客体験の共有化、CRMによる顧客ロイヤルティーの向上。

 

 

そして、バリューチェーンは経営機能ごとに、Web・デジタルの活用によって変えるべきことを明確にする(【図表4】)。最後に、収益モデルは設計するビジネスモデルによって、目指すゴールとして「モデル損益」を設計し、逆算でKPI(重要業績評価指標)を設定する。

 

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ビジネスモデル革新のパターン

 

では、Web・デジタルを活用したビジネスモデル革新のパターンにはどのようなものがあるだろうか。

 

「攻めのデジタル」を実践した事例①直販チャネルシフト

卸売業A社は、少品種の展開であったものを多品種に変更。営業担当者を置いていたのをWeb・リアル店舗の併用に変え、薄利体質だったのを適正利益が確保できる体制に見直した。また、法人のみを対象にしていたが個人向けに直販チャネルを設定。自社在庫からメーカー在庫へと変更し、営業が配送していたのを物流センター配送に見直した。

 

「攻めのデジタル」を実践した事例②プル型新規開拓シフト

同じく卸売業B社は、商品情報の知識が個人にとどまっていた。そこでWebを活用し、誰でも詳細情報へアクセスできるように改善。また、足で稼ぐ営業担当者だけでなく、Web営業の担当者(Webからの問い合わせを電話やメールで対応)を新たに置いた。Webを活用し始めたことで、これまで地元顧客に限って展開していた範囲が広がり、全国の顧客とも取引が始まった。プッシュ型の営業からプル型になったことにより、新規の顧客も取りやすくなったという。

 

「守りのデジタル」を実践した事例/高付加価値シフト

サービス業を営むC社は、薄利多売に陥っており、現場のサービス力は低下していた。原因の1つは、顧客情報の未管理である。これを改善するため、CRMにより情報共有を図り、ITを活用して無駄な業務も効率化させた。また、広告をあちらこちらに出していたのを見直し、アフターサービスへ力を入れることにした。結果、サービスの質が上がり、提供商品の単価もアップ。生産性も大きく向上した。

 

最後に、Web・デジタルにより収益を改革するためのポイントをまとめる。

 

(1)Web・デジタル活用の目的は、作業の効率化ではなく、ビジネスモデルを変えて、収益を改革することと捉える

(2)Web・デジタル活用は、情報システム部の仕事ではなく、経営者・ライン責任者の仕事である

(3)Web・デジタル活用には、攻めのデジタル(顧客創造)と守りのデジタル(価値創造)の2つがある

(4)ビジネスモデルは、ターゲット・提供価値・顧客接点・バリューチェーン・収益モデルで構成され、Web・デジタルを使って再設計する

 

自社はWeb・デジタル活用で自社のビジネスモデルの何を変えるのか。価格競争激化、労働規制強化の厳しい経営環境の中、この難局を突破する最終手段は、Web・デジタル活用しかないのではないだろうか。「Web・デジタルは高収益・生産性向上の切り札」なのである。

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