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メソッド2017.09.29

農業参入は出口(販路)の設計が鍵:井上 禎也

 

企業の参入が相次ぐアグリビジネス

農林水産省によると、農地を利用して農業経営を行っている一般法人は2676法人(2016年12月末時点)である。2009年12月末では427法人であったのが、7年で6倍以上に増えていることが分かる(【図表1】)。これは09年の農地法改正により、リース方式による民間企業の参入が全面自由化されたことが大きな理由である。

また2016年4月には農地を所有できる法人(農業生産法人)の要件などが見直され、農地法上の呼称も「農地所有適格法人」へと変更された。この見直しにより、法人の構成員や役員要件のハードルが下がり、企業・法人の農業参入が促進されたといえる。

しかしながら農業就業人口を見ると、2016年は192.2万人。2010年の260.6万人から26.3%減と大幅に少なくなっている。その半面、新規就農者は2015年で6.5万人と、2010年の5.45万人から約1万人増えている。国の政策でもある若い世代の就農者の育成や、企業参入による雇用就農者の増加が要因であると考えられる。(【図表2】)

就農者が増えた理由には農業従事者の高齢化(老齢化)が進み、後継者不足による廃業が増えたことや、脱サラして農業を始めても収穫量が思うように上がらず、また販売先の開拓もできないため、資金不足となり長続きしないケースなども考えられる。このような状況を変えていくためには国の後押しが必要であるが、やはり経営資源を持つ企業が新たな農業の担い手となることや、農業サポート分野の事業が成長することも求められるだろう。

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農業のIT化

農業の担い手となる企業も、今まで通りのやり方を続けていては、その結果は過去と大きく代わり映えしないだろう。人海戦術で生産性を向上させるのではなく、人手不足を前提に置き、いかに生産性を確保していくかを考えていかなければならない。必要になるのは、人がいなくても問題のないオペレーションやシステムを確立することと、安定した収穫量を確保することだ。

事実、最近は収穫量やオペレーションに関する環境が、IT化の進展で変化を見せている。

例えば、その1つが植物工場であろう。植物工場は大きく2つの種類に分類される。閉鎖環境で人工光により育成する「完全人工光型」と、ビニールハウスのように自然光を取り入れ、そのハウス内の温度などを制御する「太陽光型(併用型)」である。現在では後者が主流であるといえる。

完全人工光型はイニシャルコストが高いため、参入障壁が高い。しかしながら制御装置により作物の環境を調整し、害を及ぼす虫や病原菌を遮断することで、最大の成果を出すことが可能である。

もう1つ、IT化により農家の作業効率化が図られているものがある。それは耕運機やコンバインなどの農業機械の無人化である。昔は鎌などを用いた手作業で収穫していたが、農業機械の登場により、その作業効率は飛躍的に向上した。その効率を2倍、3倍にするための農業機械の自動運転も、すでに実用レベルになっている。

このように農業におけるIT化は、ここ数年で大きく進歩している。日本の農作物の品質は海外からも高く評価されているため、人手不足を補える技術が普及・浸透すれば日本農業の国際競争力を高めることができる。

 

 

農地法が阻む植物工場の成長

農業のIT化がこれからも進むことに異論を唱える人は少ないと思われるが、その進歩にブレーキをかけているものがある。それは農地法である。企業参入を促すために改正されている農地法だが、その実は農業のための法律ではなく、農地のための法律となっているのだ。「農業=土」という前提で定められているため、農作物が生産できる施設であっても、コンクリートで舗装された植物工場である場合は、固定資産税が割安になる農地と認められない。

政府は企業参入の後押しのために、舗装していても「農地」として認定し、税負担を軽減することを検討しているが、水道光熱費などを含めたランニングコストに対する補助金などについて課題が残る。自社の遊休地などの経営資源を生かして、アグリビジネスへの参入を検討している企業は、先端技術の動向とともに、その成り行きを見守る必要がある。

 

価値をつくり、届ける

アグリビジネスを取り巻く環境は大きく変化している。「規制産業」と呼ばれていた面影はあるものの、安倍政権下で「攻めの農林水産業」と掲げているように、その規制も緩和されてきた。また本来は全く含まれていない、もしくはごく微量にしか含まれていない成分を、技術を用いて含有度を高めた機能性野菜や、有機野菜、無農薬野菜などの市場も確立され、消費者が求める価値も変わっている。

当たり前のことだが、良いものを作っても必ず売れるとは限らない。せっかく投資を行いアグリビジネスに参入したにもかかわらず、思うように収益が上がらず黒字化できないという声を聞く。特に農作物は生き物であるが故に、先にその出口である販路を設計しないと無駄が生じてしまう。

参入初年度から黒字化に成功しているケースを見ると、マーケティングや商品開発の発想を持って取り組んでいるという共通点がある。つまり、価値を届ける相手がはっきりとしていることが大事だ。ぜひとも、どのような価値を、誰に届けるのかを明確にして、環境変化に合わせたビジネスモデルを組み立てていただきたい。

 

 

Profile
井上 禎也Tomoya Inoue
セールスプロモーション活動支援やノベルティー・販促商品の企画提案などの営業として活躍後、コンサルティング部門に異動。これまでの実務経験を生かした販売促進活動の支援、営業力強化などを中心に、実践的なコンサルティングを展開中。
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