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コンサルティング メソッド

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メソッド2017.09.29

社内の「あるある話」が成長を阻害する:浅井 尊行

 

「なれ合い」の弊害

金融庁は7月20日、企業が監査契約を結ぶ監査法人について、一定期間で強制的に交代させる「ローテーション制度」の導入を検討すると発表した。近年、上場企業の不適切会計が相次いでおり、その要因として同一監査法人との長期契約による「なれ合い」が問題視されているためだ。

同庁がまとめた調査報告によると、TOPIX(東証株価指数)上位100社のうち、この10年間で監査法人が交代したのは5社。監査契約が固定化しているのだ。上場企業の会計監査では担当監査法人の独立性確保が求められるが、同一監査法人との関係が長期間に及ぶとなれ合いの関係が生まれ、会計の異常値に対して批判的・客観的な検証が行われない恐れがある。すでにEUでは2016年6月より、上場企業に対して担当監査法人のローテーション(最長10年で交代)を義務付けているという。

共通の目的を持ち、成果を共有する「分かち合い」の関係が、時間の経過とともに仲間内で互いに依存し、現状に満足する「もたれ合い」の関係に発展する。これをなれ合いと呼ぶ。特に同一の民族・言語・慣習を有する国民が大多数を占める日本は、こうしたなれ合いに陥りやすい文化的土壌がある。

従って、なれ合いの構造は上場企業と監査法人の間だけではなく、あらゆる企業の組織に内在している。

 

なれ合う組織の共通点

コンサルティングの現場においても、互いに意見の衝突を避け、暗黙の了解やあうんの呼吸で意思決定や実行がなされていく「なれ合いの文化」に染まった組織とよく遭遇する。この文化は、なんとなく醸し出される空気感のようなもので、特定の個人が形成しているわけではない。

なれ合い文化が根付いた組織に属する人たちは、自分自身がなれ合いの中にいることに気付いていないことが多い。長きにわたって変化のない環境に身を置くと、良くも悪くもメンバー同士が分かり合う関係性が構築される。分かり合えることでプラスに働くことがある一方、マイナスに作用するケースも多々ある。

なれ合いの文化がマイナスに作用している組織に共通して見られるのは、「業績が伸びていない」ということだ。その組織を構成している人たちが「すぐ諦めやすい」「ネガティブな思考に陥っている」「損得勘定や好き嫌いで動いている」からである。例えば、「○○君に△△を言っても無駄だ」「今さらやっても状況は好転しないだろう」「その仕事は嫌だ。□□さんにお願いしよう」といった類いである。

つまり、属している人に総じて当事者意識がなく、自分に都合のよい解釈と行動をすることが常態化しており、何か問題が起きると誰しもが「私以外のあの人が悪い」と考える傾向が見受けられる。「人間は好き嫌いで働くものだ。論法で働くものじゃない」(夏目漱石『坊っちゃん』)とはいうものの、経営者は皆が納得のいく“論法”を明示して、社員が主体的に働ける環境を整備しなければならない。

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仲間内で盛り上がる「あるある話」

業界内や会社内など、特定のグループの中でのよくある話、いわゆる「あるある話」は盛り上がる。だが往々にして、話している者同士が傷のなめ合いをしているケースは多い。こうした「あるある話」が盛り上がる組織ほど、なれ合いの文化に侵されていると私は考えている。

あるある話は聞いている側、話している側の双方が分かり合えるだけに、おもしろおかしく感じられて話が弾みやすい。これは、ある意味において、仲間内での価値観が合致しているということだ。それ自体は良いことであるものの、場合によっては組織にネガティブな作用をもたらしてしまう。

市場や顧客に目と意識が向かず、会社・部門の方針批判や、職場・同僚批判を繰り返す。“自分は被害者”と考え、現状を変えることに諦めている社員同士ほど話は盛り上がる。ただ、こうしたあるある話に本当の“オチ”はない。時間が来たら互いにため息をついて分かれていく。これを繰り返すのだ。

これは一見、職場の人間関係をスムーズにさせるためのガス抜きのようにも見えるが、実際は互いに傷をなめ合い、現状を変えることに諦めているだけであり、結果として組織の活力を奪っている。

残念ながら、このような言動をとるのは中堅社員やベテランクラスであることが多い。先頭に立って組織・チームをけん引してほしいメンバーが、内向きな目線であるある話に労力を割いてしまっている。しかも中堅・ベテランであるが故に、もっともらしいことを言うため、周囲に及ぼす影響は大きい。

 

組織の価値観を明示し、個人の価値観と対峙させる

あるある話は、なれ合いの文化から生まれる。そして、なれ合いの文化は諦めやすく、一見して物分かりのよい組織の中にはびこりやすい。ルールや仕組みの運用を厳しくするだけでは、その文化を根本から払拭することは難しい。では、どうすべきか。

それは、自社の価値観(価値判断基準)を明確にして、社員にそれと対峙させることである。組織の価値観と個人の価値観を衝突させ、互いに納得がいくまで、前向きで建設的なコミュニケーションを繰り返すのである。

組織と個人の価値観が合致すれば、そこに「共感」が生まれる。この共感は、社員同士が仕事を共に進めていく上で、非常に重要な原動力の要因となる。そして組織の中に存在する共感は、上司や同僚・部下を「仲間」と認識するための判断軸となり、自分自身がそこに属してよいかを測るものでもある。

価値観は、「合わせよう」という強い意志を持たないと、合うものではない。組織を形成する個人は、育った環境や自身の成長に関わった人、置かれた環境で飛び交う会話(言葉の質)、担当してきた顧客などさまざまな影響を受け、その中から受け入れたいもの、受け入れやすいものを取捨選択し、自分自身の価値観を形成している。よって組織の価値観を一方的に押し付けるのではなく、互いに価値観をすり合わせて協力を得ていくことだ。

業績数値が横ばい、人の出入りが激しい、人材が育たない。このような現象があなたの会社で見られるなら、まずは職場で交わされる「あるある話」に耳をそばだてて、組織やチームになれ合いの文化がはびこっていないかを検証していただきたい。

 

 

 

 

Profile
浅井 尊行Takayuki Asai
外資系企業で部門マネジャーを経験後、タナベ経営へ入社。経営戦略構築コンサルティングで、製造~卸売~小売・サービス業など、幅広い分野で活躍中。また、戦略を現場へ展開するマネジメント教育を得意とし、幹部育成~社員の行動改革などでクライアントから高い評価を得ている。
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