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メソッド2017.04.27

3年後を見据え、 自社は何で突き抜けるか:ストラテジー&ドメイン東京本部

 

29年ぶりの高水準となったエンゲル係数

総務省が2月17日に発表した「家計調査報告(家計収支編)」(2016年平均速報、2人以上の世帯)によると、エンゲル係数が前年より0.8ポイント上昇して25.8%となった。1987年以来、29年ぶりの高水準であるという。エンゲル係数とは、家計支出に占める食費の割合を示し、生活水準が高くなるにつれて数値が低くなる経済指標として知られている。

エンゲル係数が上昇した要因として、円安や天候不順の影響による食品価格の上昇に加え、共働き世帯の増加に伴って調理済み食品の購入が増えたこと、また節約志向の高まりによる衣料品などの買い控えで、支出に占める食費の割合が相対的に上がったことなどが考えられている。

ただ、私は家計調査の「1世帯当たり年平均1か月間の支出(2人以上の世帯)」を見ているうち、気付いたことがある。2000年と2016年のデータを比べると、調理食品への支出金額は約1.2倍に増えていた。その間のエンゲル係数は、23.3%から25.8%と2.5ポイント上昇している。これだけを見ると、確かに調理食品への支出増加がエンゲル係数の上昇要因であるかのように見える。

だが、消費支出の総額を見ると、31万7328円(2000年)から28万2188円(2016年)と11.1%減少しているのである。一方、その間の「食料費」は7万3954円から7万2934円と1.4%減にとどまる。消費支出全体が1割強も減っているのに、食費は微減なのだから、調理食品への支出増加だけがエンゲル係数の上昇要因でないことは明白である。

食料費の内訳を見ると、「米」は2000年から4割以上も減少(42.3%減)したのに対し、「パン」は1割近く(9.6% 増)増加している。「魚介類」は3割弱(27.5%減)減少したが、「肉類」は1割増加(10.9%増)している。

一方、その他の支出品目を見ると、「通信費」が約1.4倍に増加した半面、歳暮などが含まれる「交際費」は30.1%減、「仕送り金」も39.7%減と減少している。つまり支出の中身が大きく変わってしまっているのである。

また別のデータだが、国税庁の「民間給与実態統計調査」(1年勤続者の企業規模別給与所得者数・給与総額・平均給与)によると、2015年における個人の平均給与は2000年に比べ6.2%減少している。

これらのデータから分かるのは、消費の大本となる財布に入っている金額が少なくなる中、ライフスタイルも大きく変化したという事実である。「生活水準が下がったから、エンゲル係数が上がった」とは、一概に言えない。

 

「突き抜ける価値」を生み出す6つのコンセプト

私が担当する分野は、「食品・フードサービス」である。そのクライアントに対し、先述した状況下で次の10年を生き残るためには、競合他社と比べて際立った「突き抜ける価値」が必要だと発信している。

この突き抜ける価値を創る上で、3つのポイントがある。それは①課題マーケットの特定とターゲットマーケティング、②コト価値提供による顧客のロイヤルカスタマー化、③商品開発よりも「ビジネスモデル開発」である。

この3つのポイントを押さえるには、企業側の都合ではなく、まず顧客視点に立つ必要がある。そして顧客視点によって突き抜ける価値を創造するには、次の6つのコンセプトを持っていただきたい。

1点目は、「変化を経営する」。顧客に選ばれる価値を追求していくためには、会社自体が変わらなければならないことがある。よって、魅力ある顧客価値を発見し、それに対応するため変化自体を経営していくことが求められる。

経営では「バランス」が重要となるが、成長するためにはバランスを崩す局面が生じる。バランスを崩しながらでも、倒れないように経営していく必要がある。「変わりたくない、変われない」では成長できない。よく経営者は「ピンチはチャンス」と言うが、まさに「ピンチは変化のチャンス」でもある。

2点目は「付加価値創造のビジネスモデル」。魅力ある顧客価値を発見し、持続的成長モデルから学び、付加価値を創造するビジネスモデルを構築することだ。ただ、「付加価値」という言葉の意味を履き違える経営者は多い。付加価値とは、シンプルに考えれば「売り上げから変動費を除いた限界利益」である。決して、なんでもかんでも機能を増やすだけが付加価値ではない。

従って、業界の常識や社内の慣習にとらわれることなく、持続的成長を続けている事例から謙虚に学び、付加価値を創造するビジネスモデルを組み上げることが大切だ。

3点目は、「課題マーケット×専門価値」。課題マーケットに対して顧客ニーズを掘り下げ、専門価値を付加することだ。旧来のマーケットやチャネルに盲目的に従うのではなく、視野を広げて見る。すると、見えてくる景色は全く違ってくるはずだ。

4点目は、「品質価値」である。欧米では、付加価値税(日本で言う消費税)の税率が10% を超えたころから、専門問屋が淘汰されていったそうである。単に運ぶ・帳合いを付けるだけの価値では、確かに将来はないだろう。卸業なら顧客(食品メーカーや外食企業)へ届ける調達品質をしっかりと特定し、これを徹底して高めていくことが重要なポイントとなる。

5点目は、「コト価値・人的価値」。感性・時間・社会価値など、モノではなくコトによる価値と、その創り手となる従業員の品質である。特に人的価値を重視したい。人手不足に突入している中、単純作業・労働集約的な企業は淘汰される。自社の従業員にしかできない仕事に特化し、その他は全て自動化・外注化していく必要がある。

そして6点目は、「地域ブランドとブランディング」。地域ならではの、その土地だけの価値を発見し、自社のこだわりや歴史を伝え、ブランド創造へつなげていく。「地方だから何もない」と思い込んでいないだろうか。普段、自分たちには見えていないものが、他の地域の消費者には魅力的に映ることもある。

2019年10月には、消費税増税(10%)が予定されている。過去のデータから見て、それを境に消費支出は大きく減少するだろう。

また2019年は世帯数がピークを迎え、東京オリンピック・パラリンピックの五輪効果で景気は上向くと予想される。とはいえ、2020年以降は国内消費が減少していくだろう。

それまで残り3年である。経営者は、自社の突き抜ける価値を明らかにし、徹底的に高めていくことが急務だ。

 

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