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メソッド2017.03.31

ホワイトカラーの生産性を考える:大嶺 正行

 

「働き方改革」の具体策

政府が進めている政策の中に「働き方改革」がある。少子高齢化の傾向に歯止めがかからない状況の中、増加を続ける社会保障費対策のためにも、各企業の生産性を上げることが急務となっているからだ。加えて、企業を取り巻く採用環境も「売り手市場」といわれて久しい。思うように人材を確保できないという課題を抱えている企業も多い。社員それぞれが働きやすい環境を整えれば、優秀人材の採用や個々の社員のパフォーマンスアップも期待できる。

だが働き方改革とは言っても、国はあくまで法的な縛りを強化するだけで、その具体策は各企業に委ねられる。誤解を恐れずに言えば、法律変更に対して企業側が無策であれば、単純にコストアップを強いられるだけとなる。

そんな中、食品大手の味の素が、2018年度までに所定労働時間を7時間にすると発表した。時間当たり残業代が減ることを不安視させないために、管理職を含む4000人の基本給を一律1万円引き上げることも同時に行うという。グローバルでの人材確保競争に打ち勝つことが目的のようだ。先を見越したトップの英断だと思う。

 

移動時間の簡単活用

工場などで働く、俗に「ブルーカラー」といわれる人々の生産性向上は日本企業のお家芸である。半面、ホワイトカラーの業務効率は総じて低いといわれる。業務効率を高めるための大きなヒントは、ITの活用にあると私は考える。

ITといっても、難しく考えることはない。例えば、20年前とは違い、今では営業社員が顧客先から次の顧客先までの移動中に、公衆電話を探す光景はめったに見られないだろう。携帯電話・スマートフォンは十分普及している。仮に1週間の訪問営業件数が20件ならば、移動時間を利用すれば、1日で同数の電話営業も可能であろう。

また社員同士でパソコンや携帯メール、LINEなどのスマートフォンアプリを活用すれば、互いのタイミングを図ることなく確実に連絡が取れる。こんなことは、時間感覚のある人であれば誰でもやっている当たり前のことであるが、ポイントは「どうしたら移動中の隙間時間を有効に利用できるか」を考えられるかどうかである。

小さな時間の積み重ねであっても、電車移動中でただ寝ているだけの人と、メールやLINEで連絡を取っている人との差は歴然だろう。このような単純なことを1 つ取っても、工夫の余地が残されているものだ。意識を変えれば、生産性をアップするチャンスはさまざまなところにあるといえる。

 

フリーアドレス制で社員の能率を高める

最近は、オフィスから個人の固定デスクをなくし、好きなところに座って仕事をする「フリーアドレス制」を導入する企業が増えている。ある企業は、会議用の大テーブルに複数のイスを配し、隣同士のコミュニケーションが生まれやすいようにしたり、業務内容や気分によって席を選択できるようにしている。例えば、静かな場所で集中して考えたい社員のために、私語厳禁の個別ブースなどを設けている。時と場合に合った環境の座席を選択させることで、個人の仕事能率が上がり、また他部署の人間との交流も生まれて、新しい発想につながる。

今すぐフリーアドレス制を自社で採用するのは難しいかもしれない。まずは、「集中して取り組みたい人向けのスペース」や、「他の社員と相談しながら進めたい人のスペース」など、目的別のスペースを設置することから始めてみてはいかがだろうか。

 

SQレベルを高める

人間の素質面を計測する指標に、IQ(知能指数)、EQ(情動的知能指数)、SQ(魂指数)の3 つがある。IQは、人の知能の基準を数値化したものであり、知能検査と呼ばれる検査によって計ることができる。

EQは、米国の科学ジャーナリスト、ダニエル・ゴールマンの著書『EQこころの知能指数』(講談社)で広く知られるようになった概念である。一般の知能テストでは測定できない心理特性で、衝動のコントロール、やる気、共感、対人関係能力など、感情のさまざまな側面と関係しているといわれている。

またSQは、「魂=Soul」の頭文字を取った造語で、逆境を跳ね返す情熱、執念、気迫などの精神力を総称した指数のことだ。もちろん、定量的に測定できるものではないが、闘争心を示す言葉と考えてもらえればいい。

昨今の大競争の時代を生き抜くためには、SQレベルの差がものをいう。物事が計画通りにいかない時には、さまざまな要因によってこのSQレベルが低下しているものだ。つまり、緊張感が途切れ、判断スピードが鈍り、執着心が薄れている状況といえよう。

 

まずは前向きな視点から

いずれにしても、心・技・体ともに充実した状態がホワイトカラーの生産性向上の基本である。あらゆる工夫と試行錯誤を繰り返しながら、個々人のあるべき生産性の明確な目標を設定し、挑む姿勢が必要な時代なのだ。

その意味でも、各企業が政府の進める「働き方改革」を好機と捉えることからスタートすれば、生産性の飛躍的向上が見えてくるのではないかと思う。まずは前向きな視点から、現状否定のスタンスに立ち、行動を起こすことが肝心である。

 

Profile
大嶺 正行Masayuki Omine
沖縄支社長、東北支社長を経て、2011年より東京本部へ。幅広い分野でのコンサルティング経験を生かし、コンサルティング・セミナー・各種講演の第一線でプレーイングマネジャーとして活躍している。経営者のパートナーとして、経営全般の高い視点からクライアントの経営判断を支援。成果に直結する実践的なコンサルティングを展開し、クライアントから厚い信頼を得ている。
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