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メソッド2017.03.31

シェアリングエコノミー・ビジネス:山本 剛史

 

所有せずに借りる

不要不急品に関しては自分で所有せず他の人たちと共有し、必要時に“利用”する。そんな「シェア」と呼ばれるスタイルが、ビジネスにおいて注目されている。

ところで、「シェアリングエコノミー」という言葉を聞いたことのある人も多いだろう。

シェアリングエコノミーとは、「個人が保有する遊休資産(スキルのような無形のものも含む)の貸し出しを仲介するサービス」(総務省)のことである。昨今、日本にもこの考えが浸透してきたことで、人々のシェアに対する概念が変わりつつあるといえる。

ネットリサーチ会社のアイブリッジが2014年に、20歳以上の男女1000人を対象に調査した「買ったけど正直無駄だったと思う家電ランキング」を発表した。ランク入りしたもの(次頁【図表】)を見ると、確かに「買わなければよかった」と思える家電製品も多い。これらは全てシェアリングサービスの対象になる商品という見方もできる。

借りた方が良いものは遠慮なく借りる。そんな文化が日本でも根付く日はそう遠くないと思う。本稿では、3つの視点からシェアリングエコノミーを取り入れた事業展開について考えてみたい。

【図表】 買ったけど正直無駄だったと思う家電ランキング(複数回答)

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時間とスペースを「切り売り」する

A社は、貸会議室から寺まで、遊休スペースを簡単にネットで貸し借りできるサービスを展開。貸し手は、普段使っていない空きスペースや、平日だけ使っていない空きスペースなどを登録。それをホームページ上で見たユーザーが、1時間単位または1日単位でレンタルできるというものだ。マンションの一室から休日のカフェ、オフィススペースなど約6000件(2017年2月現在)ものスペースを掲載しており、“野球場で社員総会”など、ユニークなニーズに応えている。

またB社は、空きスペースを週貸し・1日貸し・時間貸しのように区切って、ユーザーの希望に応じて貸したい人と借りたい人をマッチングするサービスを提供。店舗内の空きスペースを貸し借りすることもできる。借り主からは物品の販売や自分の教室など、小さなビジネスを気軽に行うことができると評判だ。

このように、時間単位を細かく区切ったり、空きスペースを“切り売り”したりするサービスは、まだまだ伸びる余地がある。

一方で、有効なスペース・時間を新たに創り出す動きも見逃せない。自宅の不要なモノを丸ごと買い取って転売(リサイクル)する、使用頻度は低いが捨てられない(個人的に思い入れの強い)モノの収納スペースを提供するといったサービスがそれに当たる。

スペースを“創り出すサービス”と、スペースを“利用するサービス”。1つ言えることは、過去の常識は通用しないということだ。私は、このサービスの組み合わせの中に新たな事業のタネがあると見ている。

 

シェアは手段目的はコミュニケーション

シェアを「手段」と位置付けて考えてみてほしい。目的は人との出会いであったり、“誰かとつながりたい”、“視野を広げたい”という欲望であったり、要するにコミュニケーションに重きを置いたものだ。

シェアビジネスの代表格として“シェアハウス”が挙げられる。例えば、共有部のキッチンで他の入居者と一緒に料理をする。この場合、シェアするキッチンは手段で、目的は“一緒に楽しく料理をしたい”という欲求である。

シェアハウスへの入居動機としては、共同住宅による価格の安さというイメージが先行しがちだが、「安さ」ではなく、「暮らし」を求めて入居を希望している人がいるという視点を大切にしてほしい。

目標を達成するには、1 人より同じ目的の仲間と一緒に取り組むのが一番だ。今後もコミュニケーションに重きを置きつつ、目的に特化したシェアハウスは増え続けるだろう。

 

付加価値への転換

シェアハウスはBtoCのビジネスだが、BtoBのシェアビジネスとしてはシェアオフィスがある。その事例を紹介したい。

C社は、自社の事務所をシェアオフィスへ移転した。古くなったビルをリノベーションした物件で、事務所スペースは移転前の3分の1に減り、賃貸料は半分にまで減った。スペース当たりの単価で考えると1.5倍になっているのだが、C社の社長は移転にとても満足しているとコメントしている。なぜだろうか?

利点はまず、設備面の充実にある。シェアオフィスの共有設備である大型のコピー機や冷蔵庫、シュレッダー、カフェスペースなどは、移転前にC 社が使っていたものよりもグレードが上がったという。また、シェアオフィスのスタッフに、来客の受け付けから案内、郵便物の仕分けまでしてもらえるので、事務仕事のアウトソースにもなっていることや、駅からのアクセスが良くなった点も評価しているという。

すなわち、新たな付加価値を創造(ここではシェアオフィス)すれば、老朽化したビルであっても、以前よりも高い賃料を設定することができるということを示している。

以上の3つの観点に立ち、シェアリングエコノミーを自社の事業にも取り入れていただきたい。

Profile
山本 剛史Tsuyoshi Yamamoto
企業の潜在能力を引き出すことを得意とする経営コンサルタント。事業戦略を業種・業態ではなく事業ドメインから捉え、企業の固有技術から顧客を再設定して事業モデル革新を行うことに定評がある。現場分散型の住宅・建築・物流事業や、多店舗展開型の小売・外食事業などで生産性を改善する実績を上げている。神戸大学大学院卒。
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