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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2021.07.01

中堅・中小企業が抱えるマーケティングの落とし穴:石田 貴大

無計画に行われがちな商品開発とプロモーション活動

 

近年、SNS・インフルエンサーマーケティングを駆使した商品開発やプロモーション活動を行う企業を目にする。しかし、偏重したマーケティングによって失敗している企業が少なくない。流行に敏感な企業ほど、この罠に陥りがちだ。経験や勘に頼った無計画なマーケティングによって、商品が売れないという失敗を招いている。

 

本来のマーケティングとは、新商品開発から販促活動までを体系的にマネジメントすることである。「近代マーケティングの父」と言われる米の経営学者フィリップ・コトラー氏も、「成功するマーケティング戦略はいくつものレベルのマーケティング活動を1つに織り込む必要性がある」と示唆している。つまり、体系的なマーケティング戦略が企業を成功に導くのである。

 

マーケティング戦略を考え、実践・評価するまでのプロセス体系を「マーケティング・マネジメント・プロセス」と言う。このプロセスの序盤は、新商品コンセプトを設計する部分だが、具体的に何をすれば良いのかは不明瞭であり、実装が難しい。コトラー氏の著書『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編』(丸善出版)、『マーケティング原理』(ダイヤモンド社)においても同様である。マーケティング・ミックスの要素、4P(Product:製品、Price:価格、Place:流通、Promotion:販売促進)をさらに細かく展開する方法についての記述は豊富でも、4P分析の前に行う戦略的なマーケティングについては抽象的なのだ。

 

これは、マーケティングの対象や活動範囲が時代とともに広がっているためである。またマーケティングは、下流になれば目的や内容が明確になり、具体的な方法を提示しやすい。だが、上流になるほど気付かない目的や課題を発見しなければならない。

 

現代と比べて消費者のニーズが容易に理解でき、競合も少ない市場環境だった過去において、マーケティングにおける上流よりも下流に関心や重点が置かれるのは自然の流れと言えるだろう。そこで本稿では、効果的なマーケティング活動を行うための上流部分の設計についてお伝えする。

 

 

※複数のフレームワークやツールを組み合わせて立案したマーケティング戦略を広告宣伝や営業活動などに活用する手法

 

 

 

 

 

【図表】新商品コンセプトの仮説立案の流れ

 

 

体系的なマーケティング体制を構築する

 

では、具体的に何から行えば良いのか。まず、「マーケティング分析は仮説を立てることから始まる」ということから理解いただきたい。

 

次に、市場環境から論理的に新商品コンセプトの仮説を設計する。理想の状態と現状のギャップ(課題)を見つけ、そのギャップの原因を解決することが重要だ。

 

商品開発者の立場で考えると、理想の状態とは「多くの顧客が商品に満足し、その商品を購入してくれること」である。つまり、現状そうなっている商品と、なっていない商品のギャップを考察することで原因を導き出せる。当たり前に行っている競合・商品分析が、実は穴だらけということも珍しくはないのだ。

 

新商品コンセプトの仮説を設計する分析方法として、どのような市場情報を用いるかは場合によって異なるが、代表的な手法として【図表】がある。売れている商品とそうでない商品のギャップの原因を、STP分析※1とマーケティング・ミックスで求めるものだ。

 

市場とターゲットを発見し、そのターゲットに合わせた新商品コンセプトとなる「ポジショニング・ステートメント」を構築する。そこから、具体的な4Pが設計される。現在売れている商品と売れていない商品を選別し、有望な市場とターゲット、魅力的な価値を分析することで、売れている理由と売れていない原因を導き出せる。この分析で、目指すべき市場・ターゲット・魅力的な価値を体系的に定めれば、有望な新商品コンセプトの仮説を構築できるのだ。

 

市場・ターゲットの発見にも【図表】を応用できる。外部や内部の環境によって行うべき分析はさまざまであるものの、PEST(マクロ環境分析)や3C(ミクロ環境)分析などの各分析手法を駆使しつつ、調査・検証しながらSTP分析を進めていく。

 

このSTP分析の結果を基にすれば、4Pの1つである「Product(製品)」のアイデアを出すことができる。そして、このアイデアの有効性を検証するためのコンセプトテストを行い、最終コンセプトを導き出す。

 

最後に、最終コンセプトにコンジョイント分析※2を行う。商品コンセプトの「どこをどの程度」変更すれば、消費者に気に入ってもらえるのかを明らかにしていく分析である。

 

事例を1つ紹介しよう。大手文具メーカーのトンボ鉛筆は、修正テープの横・縦引き商品とペン型商品で業界トップシェアを誇っている。同社は、修正テープの普及期にさらなる市場拡大を模索し、ヘビーユーザー向けでコストパフォーマンスの高い環境配慮型商品が求められると考えた。そこで詰め替えカートリッジ式の修正テープを企画。コンセプトの需要確認を目的としたコンジョイント分析を行った。

 

以前の調査から、「修正テープは見た目のイメージと実際の使い心地にズレがある」と仮説を立てていた同社は、使用前後の評価の比較調査を行った。結果として、使用後の評価が圧倒的に高かったのは、使い捨てではなく詰め替えカートリッジ式の修正テープだった。エコ意識の高まりで、修正テープをケースごと捨てることへ抵抗を感じている人が多かったのである。この結果が、「手軽にテープを交換でき、カートリッジをしっかりと固定できるロック機能を備えた修正テープ」という新商品を上市する決定打になった。

 

普及度がほぼ飽和に近づいた商品も、体系的なマーケティングを行えば、新たなニーズを開くことができる。今後の新商品開発は、分析と仮説に基づいて行っていく必要があるだろう。

 

 

※1…セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング:市場の分割、勝負する市場の決定、市場での立ち位置を把握し、効果的に市場を開拓するためのマーケティング手法

※2…最適な商品コンセプトを決めることを目的とした分析手法。商品全体で評価(全体効用値)することで、価格や色、デザイン、品質など、個々の要素の購買に影響する度合い(部分効用値)を算出する

 

 

 

 

Profile
石田 貴大Kidai Ishida
移り変わる市場ニーズを的確に捉え、顧客付加価値を高める販促プロモーションを展開。ウェブの活用による認知拡大、顧客創造をテーマとしたコンサルティングを得意とする。
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