人事評価制度を改善する着眼点
~考課者を「一人ぼっち」にしない仕組みづくり~
北東 良之
2021年4月号
【図表】月次ショートレビューの流れ
考課者を「一人ぼっち」から救え
とにかく「考課者を一人ぼっちにしない」ことが、評価制度を改善する最大のポイントである。人事評価はとかく孤独な作業になりがちだ。期初には組織目標を部下に伝えて目標を設定し、期末には評価を実施して結果を会社に上げる。
これら一連の業務は、「上から下」もしくは「下から上」への一方通行になる特性を元来備えている。考課者は、「他部門の考課者がどのような目標設定をしているのか」「どのような評価をしているのか」という情報に乏しい。一人で悩みを抱えて根本的に正解を知ることなく、個人で解決を図っているのが現状だ。考課者は、営業や製造など固有技術については高いスキルを持つものの、多くは「考課者としてのスキル」をそれほど有していないと認識すべきである。
そこで、人事評価を改善するポイントを2点、紹介する。1つは「ショートレビューの徹底」であり、もう1つは「考課者の情報交換の仕組み化」である。
この2つを徹底的に実施できれば、評価レベルは劇的に改善する。少々手間はかかるものの、評価後に全体調整や修正に労力をかけるよりもはるかに生産的であり、何よりも被考課者の評価に対する納得度が向上し、考課者の価値観も徐々にそろってくる。
(1)ショートレビューの徹底
期初に策定した個人目標を、少なくとも月に1回のペースで進捗確認することである。良い評価をするためには「事実を押さえる」ことが大原則であるが、きめ細かく確認することで事実を押さえる頻度が上がり、評価に対する納得度が大きく向上する。
また、目標自体が陳腐化することに対して修正も可能で、環境変化に対応しやすくなる効果も大きい。目標は「大事に引き出しにしまっておくもの」ではない。常に達成度を確認しつつ、未達であれば対策を立て、そもそも目標の価値がなくなれば新たに設定し直す必要がある。
(2)考課者の情報交換の仕組み化
ショートレビューと同様に手間はかかるものの、やることはシンプルだ。1次考課が終了した段階で考課者が集まって、それぞれの考課内容を情報交換するのである。何も難しいことをする必要はない。互いに考課表を持ち寄り、「この人にはなぜこの点数を付けたのか」「具体的にどのような行動を評価に結び付けたのか」などの意見を交換する。
自由にディスカッションすることが大切で、繰り返していくことで判断基準が徐々にそろってくる。これは必ず成果が出るのでぜひ実施していただきたい。
実施に当たっては、こうした情報交換の場を人事評価フローに入れて仕組み化し、「○○ミーティング」などと名前を付けて実施することが重要である。人事評価は「重要だが緊急度はそれほど高くない業務」に分類されるので、現場の声が強い組織では忙しさを理由になかなか実施できず、うやむやになることも散見される。人事評価が形骸化する大きな要因の1つである。
いずれにせよ、ショートレビューも考課者の情報交換も、経営サイドや人事部門が率先して徹底的に実施し、会社が組織として評価制度とその運用に注力している姿勢を見せなくてはならない。「現場優先」という御旗に押され、考課者を孤独にする運用をしてしまえば、どのような制度を構築しても本来の目的は達成できないだろう。「人事制度は運用8割」と言われるゆえんである。
- タナベ経営
- 経営コンサルティング本部部長
- 戦略コンサルタント
- 北東 良之
- Yoshiyuki Hokutoh
- 経営理念やビジョン策定、中期経営計画策定を軸に、方針管理制度、予算管理システム、人事評価賃金制度構築など、中堅・中小企業を主なクライアントに経営システム構築を支援している。事業承継案件も多数手掛け、「会社は潰してはならない」を信条に永続発展企業づくりを目指し、改革・改善に取り組んでいる。中小企業診断士。