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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2021.03.01

「Who we are(これが私たちだ)」から自社の存在意義を捉え直す:マーケティングコンサルティング本部

 

 

【図表】ブランディングの全体像

 

 

ブランディングは経営戦略の1つ

 

コロナショック後、「ブランディング」という言葉が頻繁に飛び交うようになった。自社のブランド力の強化に向け、これまでより多大な投資を行い、さまざまな施策を試す企業は多い。

 

だが、「ブランディングとは何か」を説明できる人は多くない。「認知度を上げる取り組み」「自社の強みが顧客ニーズとマッチしていて、顧客より企業が強い関係性である状態」「デザインに統一感がある」など、ぼんやりとした理解にとどまっている。これはブランドという言葉が、広く安易に使われるようになったためだろう。

 

このような解釈も間違いではないが、本当のブランディングにはもっと大きな力がある。「想定外のショック」が数年に一度起こる先行き不透明な市場環境の中において、しなやかに強い経営基盤を構築するためには、ブランディングという言葉を再定義し、経営戦略の1つに組み込む必要がある。

 

 

自社の存在意義を明確化する

 

ブランディングについて理解すべき点は2つある。

 

1つ目は、事業としての「What we do(私たちがすること)」ではなく、ブランドとしての「Who we are(これが私たちだ)」について考えることを、ブランディングのファーストステップにすべき点だ。

 

ブランディングと捉えられている諸々のアプローチは、ビジュアルに注力したものが多い。商品パッケージや店舗デザイン、コーポレートサイトや会社案内、営業ツール、名刺、社用封筒といった「表面のデザイン」である。ブランド・アイデンティティーの一環として、ビジュアル・アイデンティティーや提供価値の整理と明文化を行い、統一されたデザインで表現することも重要だが、それが全てではない。

 

ブランディングの全体像を海に浮く氷山に例えると、海面上に見えているビジュアルの部分は水面下にある、はるかに体積の大きい氷の塊——「内面のデザイン」に支えられている。これは、自社が世の中にどのような価値を、どのように届けるのかという「存在意義」だ。

 

顧客の利益を軸に「私たちがすること」を突き詰めていくと、「事業としてどのように売り上げと利益を稼いでいくのか」という考えにたどり着き、そればかりにこだわってしまう。これはマーケティングであり、ブランディングではない。だからこそ、ブランディングの第一歩では、「私たちは何者なのか」「なぜ私たちが存在するのか」を明確にしなければならないのである。

 

自社のブランディングを検討する際は、創業時の原点と経営理念、行動規範を振り返りながら、「顧客にどのような価値提供を行い、なぜ私たちがそれをするべきなのか」まで落とし込むことが重要だ。まず自社の本質的な価値である存在意義を見つめ直してから、事業として収益を得るためのターゲット設定と顧客メリットを明確にするという手順を踏むことで、自社のミッションと事業の向かうべき方向性、それを実現するための経営戦略がブレずに決まる。

 

 

 

 

 

環境変化へしなやかに対応する

 

2点目は「ブランディング」という言葉の本質的な意味である。

 

ブランディングという言葉は、「Brand(ブランド)」と「ing(現在分詞や動名詞をつくる接尾辞)」で構成されている。構築したブランドをさまざまな方法で伝え、差別化し続けるという意味である。

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響で私たちのライフスタイルや働き方が大きく変わったように、市場や事業環境も変化し続ける。この変化に対応できなければ、自社が提供する価値は失われる。提供価値を自らに問い直し続けながら、事業内容やアプローチ手法を変えて顧客へ届ける必要があるのだ。

 

ブランディングを実践する企業として有名なのが、アウトドア用品の製造・販売を手掛けるパタゴニアである。同社の企業理念は、行動に明確に表れている。

 

2018年、同社は長年掲げてきた企業理念を変更し、新たなミッションステートメントを発表した。「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」。それ以前は、「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」だった。

 

新旧の企業理念の共通点は、地球環境への危機感だ。「地球を救う」という大きなテーマから自社の存在価値を捉え直したとき、地球環境を守るためには、必ずしも「商品」を通す必要がないと気付いたからこその変更だろう。

 

また、2019年7月21日、日本の第25回参議院議員通常選挙の投開票日に同社が起こした行動は、まだ記憶に新しいのではないだろうか。小売業にとって最も売り上げが見込める日曜日であるにもかかわらず、パタゴニア日本支社は全直営店を休業させたのである。

 

日本支社の全従業員が、家族や友人などの身近な人物と、日本の政治や選挙、地球の未来について話すきっかけと時間を持つこと、そして投票に行くことが、地球を救うことにつながると考えたからである。

 

2018年以前の企業理念は「事業ありき」だったため、このような判断と行動を起こせなかった。しかし、新たな企業理念によって、本質的な指標で行動できるようになったのである。環境変化に合わせて変わり続けている企業と言える。

 

本稿で提言したいのは、事業視点からブランドという概念を捉えるのではなく、自社の存在の根幹をブランドという視点で見つめ直すこと。そして、常に自らの存在意義を問い続け、企業として何をすべきなのかという判断を、環境変化に合わせて素早く行動にまで落とし込むことだ。

 

2021年度も不確実性の高い1年になるだろうが、だからこそ強度が高くしなやかな企業ブランドを設計し、ブレない判断と行動につなげていただきたい。

 

 

 

 

 

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