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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2021.03.01

コロナ禍が要求するビジネスの変革:山内 一成

【図表】世界デジタル競争力ランキング2020

出所:IMD(国際経営開発研究所)「世界デジタル競争力ランキング2020」(2020年9月)を基にタナベ経営が作成

 

 

コミュニケーションの在り方を見直す

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、人との接触が極端に制限されるという点で企業の経営活動に大きな影響を与えた。とりわけ営業活動面においては、「顧客と会えない」「納品できない」という問題に直面した企業が少なくない。私がコンサルティングをしている製造業向け機械・検査機器の販売商社A社も同様で、納品月が次月にずれ込んだため、受注・売り上げ減に見舞われた。

 

しかし、このような状況でも実績を上げ続ける営業パーソンは存在する。A社の社長に尋ねると、「顧客から信頼されている受注マインドの高い営業パーソンは、この環境下でも顧客から『(感染防止対策をした上で)来てくれないか』『相談に乗ってくれないか』と引き合いがある」と言う。「顧客に会えないから受注できない」というのは言い訳でしかないのだ。

 

だが、顧客との接点の持ち方の変化を余儀なくされていることは事実である。全ての営業パーソンが、Zoomなどのビデオコミュニケーションツールを活用してウェブ商談へ移行できているわけでもない。ツールを活用できていても、直接会うのと同じレベルの商談をして、実績を上げているかと言えばそうでもない。

 

コロナ禍前後で顧客とのコミュニケーションの在り方を見直し、信頼関係を築く手段を拡充させることがビジネス変革の第一歩となる。

 

 

クリアすべき2つの課題

 

現在、ウェブによるコミュニケーションの機会は、営業に限らず、どの企業も格段に増えた。時間と場所の制約が少ないという面で、ウェブでコミュニケーションを取るメリットは非常に大きい。しかし、質の高いコミュニケーションを成立させるためには、クリアすべき課題が2つある。

 

(1)ITリテラシー

 

スイスのIMD(国際経営開発研究所)が発表した「世界デジタル競争力ランキング2020」(2020年9月)によれば、日本のデジタル競争力は調査対象63カ国中27位と、前年から順位を4つ落とした。データ分析やプログラミングを行う人材の確保が難しいこと、またITリテラシーの低さが低調の原因とされている。

 

ウェブ商談が未経験の営業パーソンは少なくない。恥ずかしながら私も、コロナ禍以前においてはZoomやbellFace、Microsoft Teamsを使ったウェブ商談・面談をしたことがなかった。やらざるを得ない状況に陥って初めてその利便性を享受できたが、自身のITリテラシーの低さから最初は四苦八苦した。

 

(2)伝える力

 

対面での商談であれば、商品の現物を見せたり、複数種のカタログやパンフレット、リーフレットを見せたりと、伝えるすべはいくらでもある。しかし、ウェブで画面越しに商品を見せても魅力は伝わりにくく、プレゼンツールもポイントが要約されていなければならない。何より相手の反応が読み取りにくく、コミュニケーションの主導権が相手(顧客)に移りやすい。

 

「直感的に分かりやすく、簡潔に、でも飽きさせない工夫」が話し方にもプレゼン資料にも要求される。ウェブを使っての商談・面談は、コミュニケーションスキルを上げなければ成立しないのだ。

 

 

 

 

 

ビジネスモデルを進化させるチャンス

 

前述したA社の社長は、「対面での接触が制限されても、顧客から信頼を勝ち取っていれば顧客から自然と声が掛かる。信頼を築くには、普段から誠実かつ迅速な対応を心掛けること。また、営業パーソンの商品知識が豊富で、小さな問題であればメーカーに頼らなくても解決できることが重要」と言う。

 

また、A社の営業パーソンからは、「メーカーの担当者は遠方にいるのですぐに来てもらえないし、現状ではコロナ感染が拡大している地域からの来訪は遠慮したい。加えてメーカー側は『働き方改革』を進めており、以前は日帰りで対応してくれていたが今は宿泊出張が必要になるなどでコストが増え、顧客が困っている」との声を聞いた。

 

メーカーと顧客をつなぐ商社としては悩ましい状況だ。しかし、技術と知識に明るい営業パーソンは、メーカーの技術認定試験を受けて勉強し、機械・検査機器の軽微な不具合であれば自分で対応できる。単なる商社の営業ではなく、「技術商社」としての営業を実践しているのである。これを営業パーソン個々の意欲・能力に依存せず、組織として仕組み化することで、競合他社と差別化を図ることができる。

 

A社は技術スタッフ部門を強化して自社のセールスポイントとし、地元で確固たるポジションを築いている。技術に詳しい営業パーソンも同業他社に比べて多く、本来であればメーカーが行う対応を、すぐに駆け付けることができるA社の営業パーソンが行うため、顧客にとって利便性が高い。

 

ただし、昨今はメーカーがオンラインセミナーなどで直接A社の顧客と接点を持つ機会が増えてきた。そのままにしておけば、メーカーが商社を介さず顧客とやりとりを行う「中抜き」が進展しかねない。

 

A社は、顧客やメーカーなど周囲が変わるスピードよりも速く自分たちが変わらなければならないとの危機感を新たにした。裏を返せば、コロナ禍をビジネスモデルの変化のチャンスと捉えたのである。

 

 

身近なことからデジタル化を進める

 

DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を新聞やニュースで見ない日はほぼない。もはや時代の要請とも言える。これから取り組む企業は、いきなり多額のDX投資をするのではなく、身近なものからデジタル化を始めることが重要だ。

 

例えば、営業パーソン個人に任せていた顧客へのダイレクトメール送付を専任担当者に一括管理させて結果をデータ化したり、ビデオコミュニケーションツールを導入して顧客とのコミュニケーションに活用したり、最初はリスクの小さい範囲で挑戦することが重要である。全社的にDXを推進すれば、社員のITリテラシー向上にもつながる。

 

まずは小さな一歩を踏み出すことから始めていただきたい。この一歩を踏み出せず、3~5年後の競争力低下につなげてしまうことこそが最大の経営リスクである。

 

 

 

Profile
山内 一成Kazushige Yamauchi
タナベ経営(現タナベコンサルティング)入社後、社員教育の企画・運営や研修教材の開発・制作などに従事。現在は、経営管理システムの構築から人材制度の構築まで幅広くコンサルティング活動を展開。特に人材教育で数多くの実績があり、体制構築、研修実施、フォローまでのきめ細かい展開で高い評価を受けている。
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