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メソッド2020.12.28

BtoBにおける営業DX推進のポイント:木ノ下 哲也

 

 

【図表1】営業活動のフェーズ

 

 

営業活動のブラックボックスを解き明かす

 

今の時代に即した営業活動の在り方として、属人営業からの脱却やMAツール(マーケティング活動の自動化)などのデジタルとの融合、つまり「営業のDX」の必要性が叫ばれており、ひいては営業の現場においてもマーケティング活動が重要視されている。BtoBビジネスを展開している企業の現場では、少しずつではあるが浸透してきたように感じる。商品の開発手法やローコスト生産技術の向上による競争の激化、1人当たりの生産性拡大の必要性、新型コロナウイルス感染拡大の影響が、変化に拍車を掛けているのだ。

 

一方で、私がお手伝いをしているクライアントからは「考え方や理論は理解できるが、いざ始めてみるとうまく成果につながらない」「取り組みが社内に浸透しない」などの相談をいただくことが増えた。コロナ禍に伴い、ウェブ検索で知ることのできる情報や資料だけを持っていく訪問営業の価値が低くなった今、営業DXへの変革は必要不可欠である。

 

本稿では、BtoB企業が営業DXを推進する際に重要となるポイントと、実際の進め方について解説する。

 

営業DXの目的は、データとデジタル技術の力を営業活動に上乗せし、営業の生産性を向上することである。ここで重要なのは、販売は営業の現場で行われるということだ。そのため、まず取り組むべきは、営業活動を徹底的に棚卸しし、生産性向上を妨げる問題点を明らかにすることである。

 

属人性が強くなりがちな営業活動においては、活動内容がブラックボックスになっていることが多い。成果は明らかでも、成果に結び付けるための作業(工程)がどのように行われているのか分からない、つまり営業目標を達成するためのノウハウが共有されていない状況である。

 

このブラックボックスを解き明かさないまま、デジタルツールの導入やウェブサイトの強化を図っても、それが営業に生かせなければ目的は達成しない。営業現場がさまざまなDXの施策を昇華させられるかは、その施策が本質的な営業活動の課題解決につながっているかどうかで決まる。

 

営業活動の棚卸しのポイントは、フェーズ(変化する過程の一区切り)管理である(【図表1】)。例えば、リスト作成、架電、訪問、ヒアリング、商談、クロージング、といった形で現在行っている営業のプロセスを分解し、ステップごとの本質的な課題を共有化することが営業DXの第一歩となる。

 

 

 

 

 

【図表2】アンゾフの戦略検討マトリクス

 

 

 

インプットよりアウトプットを優先する

 

MAやSFA(営業支援システム)といったツールの導入でアナログ情報をデジタルに変換してデータを蓄積し、分析を行い営業活動に生かす。この「デジタイゼーション」と呼ばれる環境整備活動は、営業DXの中心にある。

 

デジタイゼーションにおいて重要なのは、データのインプットを優先しないことである。確かに、デジタルツールを最大限に生かすためには、データの量・質が多いほどよい。分析の精度が向上するからだ。しかし、量・質がそろうのを待っていると、いつまでたっても目的は達成されない。「データが整備されてから分析を行う」「データの入れ方がバラバラなのでまずは入力ルールを設ける」というのは間違いである。

 

データの量・質が不十分であっても、ユーザーの大まかな傾向や因果関係を見つけることは可能だ。まずは今あるデータを分析し、営業現場にフィードバックすることが先である。そして、そのフィードバックを営業が生かせるかを確認し、あらためて必要なデータの量・質を蓄積し、分析を行って営業の現場にフィードバックする。

 

特に、データのインプットを営業現場に求める場合は、目に見える対価を“先に”返すことが何より重要だ。「ターゲットを予測できる」「訪問先のニーズが分かる」など、営業現場で役に立つと思われるデータを先に示すことが、データの量・質を向上させる一番の近道である。デジタイゼーションに課題を感じている方は、まずは不十分でも、いま保有しているデータを分析し、アウトプットすることから始めていただきたい。

 

 

徹底したPDCAを継続するために

 

自社の営業活動のブラックボックスを解き明かし、現場の協力を得られる状況をつくり出せたら、後は徹底的なPDCAの実践が営業DX成功の鍵を握る。営業活動の成果につながるポイントを絞り、施策を実行し、分析・検証を行う。重要になるのはポイントの絞り込みだ。

 

先述の2点がうまくいった場合、やらなければならないことがたくさん出てくる。ここでやってはいけないのが優先順位を決めず、全てに手を出し始めることである。まずは営業活動の成果に一番近いポイントに絞り込み、その中で施策を確実に実践し、成功パターンを見つけることから始める。

 

【図表2】は「戦略的経営の父」として知られるH.イゴール・アンゾフが提唱した戦略検討マトリクスだ。製品・市場の軸で事業を4つの象限に分類し、企業の生存領域や将来の事業領域を検討するためのフレームワークである。売り方やプロモーションを考える時だけでなく、技術開発戦略を考える場合にも活用できる。このマトリクスを使い、自社の強みやビジネスモデルの付加価値を把握することから始める。

 

デジタルツールを用いた営業活動は、効率的な新規顧客・チャネルの開拓だけでなく、新商品開発までできる可能性を秘めている。【図表2】でいう第2象限、第3象限、第4象限を対象とする活動である。しかし、ここから始めてしまうと成果が出るまでに時間を有することが多く、PDCAの継続が困難になる。まずは第1象限である既存顧客、リリース済み商品、既存チャネルでの施策で、小さく成果を上げることから始めていただきたい。

 

 

 

 

Profile
木ノ下 哲也Tetsuya Kinoshita
顧客の成長に向けたプロモーション戦略構築から具体的な施策展開までを幅広く担当。特に、プロモーショナルマーケティング・Webプロモーションのコンサルティングを得意とする。クライアントの視点に立った真摯なコンサルティングが高い評価を得ている。
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