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メソッド2020.12.28

EX(従業員体験)へ投資する:経営コンサルティング本部

 

【図表1】HRテックのトレンド年表

 

 

顧客体験と従業員体験は企業成長の両輪

 

マーケティングの分野でカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)やユーザーエクスペリエンス(利用者体験)の重要さを認識し、顧客価値の進化を進めている企業が多い。こうした企業が増えている要因として、AIやRPA(デスクワークの自動化)、ドローンの遠隔制御、VR、オンライン授業・診療などの技術が、5Gという新たな情報インフラによって今後広く普及するという環境の変化が挙げられる。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響も進化を加速させる一因となっている。

 

しかしながら、企業経営者たちの話を聞くと、顧客の進化に合わせて自社を変化させるために動きながらも、働く社員の変化を促進する仕組みの構築が進んでいないのが実態のようだ。顧客価値の進化と働く社員の成長は企業成長の両輪であり、当然ながら一方で成立するものではない。

 

ここで注目すべきは、Employee Experience(従業員体験、以降EX)という考え方である。

 

EXとは、従業員が働いている会社で得られる「体験」を指す。EXは仕事内容だけではなく、安全性や快適性が配慮された社内インフラ、教育環境、働く社員の人間関係なども含めた体験で構成されている。このEXの質を高めることが、従業員の仕事へのコミットメント、つまり「従業員エンゲージメント」を高め、結果的に企業の利益と持続的な成長をもたらす。EXを変えていかないことには、顧客価値の持続的な向上は期待できない。

 

 

EXへの投資で労働生産性を高める

 

EXへの投資を行う上で欠かせないのが、「HRテック」との関連性を知ることである。

 

HRテックとは、人的資源(Human Resource)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせた造語だ。HRテックの領域では、多くの社内の人的資源をマネジメントするツールが日進月歩で生まれている。例えば、採用管理ツール、評価管理ツール、旅費計算ツールなどである。

 

中でも、HRテックの中でいま注目されているキーワードがEXだ。HRテックも時代の流れとともに進化している。(【図表1】)

 

1990年代から2000年までのキーワードはAutomate(自動化)。いかに勤怠管理を正確に行うか、給与支払いを正しく行うかを主眼に、これまで紙で行っていた作業の自動化が大きく進んだ。2000年に入りキーワードはIntegrate(一括管理)に変化した。採用管理ツール、評価管理ツール、給与計算ツールなどを導入する中で、「これらの全てを一括管理する」という方向性に多くの企業が進んだ。2012~2017年までの大きなキーワードはEngage(企業への愛着や仕事への情熱)。「従業員の企業への愛着や仕事への情熱を高めるか」が大きなトレンドとして進んだ。タレントマネジメントというのも1つの象徴的な考え方である。

 

この流れの中、次のキーワードがPerform(パフォーマンスを高める)であり、EXの向上こそが従業員のパフォーマンスに直接寄与すると言われている。効率的な仕事体験を通じ、働く社員の労働生産性をいかに高めるか。EXへの投資により、働く社員の能力・スキル・キャリアの可視化を実現し、より効果的かつ最短でチーム、個人を成長させるかを考えていかなければならない。

 

EXへ投資するポイントは次の4つである。

 

(1)キャリア開発に体験を掛ける

 

これまでの集合型の教育・OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)型だけでは限界がある。「教育×他社(異業種・エンドユーザー)」「現在の教育×AR・VR」「現在の教育×社会性」など、既存のキャリアに新しい価値(体験)を付け加える。

 

(2)キャリアを「与える」のではなく、「自ら機会を得る」仕組みに変える

 

HRテックの進化で個人・社会の取り組みや成果が可視化される中、成長を促進する機会は提供されているのか。全ての「社員」にではなく、全ての「キャリア」に公平な教育にしていく。

 

(3)リーダーシップ教育は上位職だけではなく全ての階層で実施する

 

今後、年齢・役職に関係なく自らのキャリアを描いていく姿勢が求められる。全ての社員にリーダーシップを培うための教育を実施していくことが重要である。

 

(4)新しい職務・役割を担うことはリスクではなく、成長の機会と認識させる

 

従業員一人一人の役割が明確になっているか。個人の役割を定義し、役割と成長をつなげること。メンター(仕事上の指導者)の存在がいるかどうかも、キャリアを形成する上で大きく影響する。

 

 

 

 

 

【図表2】社員に伝えるメッセージの変化

 

 

“イミ”を理解させるEX型教育の構築

 

顧客価値が進化し、働く社員のパフォーマンスが可視化される中、社内の教育システムを見直すキーワードが“イミ”型のEX教育への投資である。

 

「モノ」から「コト」へと消費形態が進んでいる。そのため、顧客の変化に合わせて、自社商品やサービスのイミを認識できる形に変える必要がある(【図表2】)。特に、エンドユーザーに遠い業務を担っている社員ほど、モノは作っているがそのモノが果たすイミを理解できていない。

 

「百聞は一見にしかず」という言葉の通り、見るだけでなく体験させ、感じることが、イミを理解させる上では重要だ。自社の存在価値はどこにあるのか。例えば、「あなたが行っているコトは世の中にどのような存在価値(イミ)を提供しているのか?」などである。

 

これを機にEXについて再検討・有効活用し、働く社員のパフォーマンスを最大化していただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

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