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メソッド2020.11.30

生き残りをかけた人件費コントロール :経営コンサルティング本部

 

 

固定費の削減が1つの鍵

 

2019年に中国で発見された新型コロナウイルスは世界中へと感染拡大している。ジョンズ・ホプキンス大学(米国)の新型コロナウイルス感染症のデータベースによると、感染者数の累計は世界で4300万人を超え、死者数は115万人を上回った。日本での感染者数の累計は9万人、死者数は1700人を超えている(2020年10月27日現在)。

 

感染拡大防止に向け、日本政府は4月以降にイベントの中止や縮小、学校の休校要請、緊急事態宣言発出による不要不急の外出自粛、各事業所に対する施設の使用制限を行ったほか、9月には安心して利用できる施設を表すための「感染防止徹底宣言ステッカー」の配布も開始した。企業もテレワークの推進や時差出勤など、人との接触を減らすための取り組みを行っている。

 

国の経済対策としては、持続化給付金や雇用調整助成金の給付、家賃支援給付金、7月から始まった「Go to トラベル」などの各支援制度があるものの、帝国データバンクの「『新型コロナウイルス関連倒産』動向調査」(2020年10月26日)によると、負債1000万円未満を含めた新型コロナウイルス関連破綻は累計645件となっている。月別では、2020年6月に単月最多の116件が発生。その後、7月は111件、8月は100件、9月は106件、10月は47件と減少傾向にあるが、いまだ予断を許さない状況にある。

 

新型コロナウイルスの恐怖の一つは、「今の経済状況がいつまで続くのか誰にも分からない」ということだ。企業はキャッシュ(現金)を準備し、長期的な視野で備えなければならない。そしてキャッシュをつくり出す(収益を上げる)か、無駄なキャッシュの流出を防がなければならない。キャッシュをつくり出すことは外部環境に依存する部分があるため、まずは無駄な流出をどのように防ぐかが最重要課題である。

 

つまり、固定費などのコストをいかに削減できるかが1つの鍵となる。そして、固定費に占める割合が高いのが人件費だ。好ましい事態ではないが、生き残りをかけ、人件費削減に手をつける企業も出てきている。

 

雇用調整による人件費削減

 

人件費を削減する方法はさまざまだが、直接的に賃金を抑制・削減する方法と、雇用を調整する方法の2つに大きく分けられる。

 

直接的に賃金を抑制・削減する方法で言えば、残業の規制や営業時間の短縮、休業、賞与削減、役員報酬削減、一部従業員(管理職)の賃金水準の引き下げ(手当削減)、定期昇給の見送りといったものが挙げられる。

 

賃金の抑制・削減を講じたとしても削減効果には限度があるため、そのような場合は雇用調整を行わなければならない。

 

雇用調整とは、簡単に言えば人員削減である。雇用調整の方法も多岐にわたり、希望退職制度や退職勧奨の実施、有期契約労働者の契約更新の見送り(雇い止め)、整理解雇などが挙げられる。

 

雇用調整の実施を行うと、従業員のモチベーション低下や自社のイメージダウンといった問題が出てくる。会社には従業員の雇用を守るべき責任があり、従業員も会社が雇用を守ってくれることを強く期待している。使用者(会社)には解雇権が認められているが、その濫用は許されない。

 

特に、強制的に従業員を退職させる「整理解雇」は、会社が自らの責任を放棄するものである。したがって、実施に際しては慎重に検討する必要がある。「整理解雇の4要件」と呼ばれるものが存在し、使用者はいつでも自由に整理解雇ができるわけではない。

 

この4要件とは、次のような内容である。

 

(1)人員整理の必要性

 

どうしても解雇しなければならないほどの高い必要性(経営状態)があるか。

 

(2)解雇回避努力義務の履行

 

整理解雇を避けるために、取り得る他の手段を十分に尽くしたか。解雇回避努力の例として、経費削減、不要資産の売却、役員報酬削減、賞与削減、残業規制、配置転換・出向などによる雇用の確保、希望退職者の募集などが挙げられる。

 

(3)被解雇者(対象者)選定の合理性

 

整理解雇の対象者を決定する基準が、合理的かつ公平であり、併せてその運用も合理的であるか。基準例として、年齢、勤続年数、勤怠、成績の優良・不良などの労働力としての評価、労働者の生活への影響などが挙げられる。

 

(4)解雇手続きの妥当性

 

使用者(会社)は、労働組合または労働者の過半数を代表する者に対して整理解雇の必要性や具体的な内容(時期、規模、方法など)について十分に説明し、これらの者と誠意をもって協議・交渉を行ったか。

 

退職勧奨の実施自体は労働基準法違反に当たることはないが、その頻度ややり方によっては違法とされることがある。また、雇い止めをする場合も、契約をこれまでに3回以上更新している、あるいは勤務期間が1年を超えている、契約の更新がないと明示されていないといった場合は、30日以上前までにその予告をしなければならない。

 

 

従業員への対応を怠らず慎重に進める

 

新型コロナウイルスの影響はしばらく持続し、企業の投資意欲の低下や個人の購買意欲の低下は避けられない。それにより、業績が悪化する企業も少なくないだろう。だが、企業を潰してはならない。会社が倒産すれば、そこで働く従業員やその家族、取引先、顧客など、多くの範囲に影響が及ぶ。

 

このような事態を避けるためにも、あらためて自社の固定費を見直していただきたい。その上で、必要があれば人件費の圧縮をするしかないだろう。その際は十分に検討し、慎重に進める必要がある。

 

特に、雇用調整を実施する場合は、専門家とも相談をしながら、これまで働いてきた従業員に対して誠意ある対応が求められる。人件費は、会社における大きなコストだが、人材こそが自社の資産でもあるからだ。

 

 

 

 

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