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コンサルティング メソッド

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メソッド2020.08.31

企業ブランディングで長く愛される仕組みをつくる:池谷 滋

 

大変革期の今こそブランディングを

 

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、世界は経験したことのないスピードで変化を始めている。また、あらゆる分野で商品のコモディティー化(陳腐化)も進むと言われている。高付加価値を持っていた商品や人材は、AIに取って代わられ、今まで差別化の要因とされてきたものがなくなっていく。結果、同じスペックの商品であれば価格のみが購入の判断軸となる。人の在り方も同様で、例えばホワイトカラーと呼ばれる人たちがスキルとして生かしてきた情報処理や価値判断といった武器も、ただの棒切れになってしまいかねない。

 

こうした大変革期において重要なのは、世の中に自社を認知してもらい、価値観に共感してもらえるファンを増やすことによって、中長期的な売り上げや企業価値の向上につなげることだ。自社の3C「Customer(市場顧客)」「Company(自社)」「Competitor(競合)」と4P「Product(商品・サービス)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販売促進)」を分析し、自社のブランドコアは何なのかを追求して、新たなブランドコンセプトを打ち出し育てていく必要がある。

 

企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)は常に変化していくものだが、企業ブランドコンセプトは色あせるものであってはならない。自社のブランディングを先延ばしにしてきた企業こそ、アフターコロナ時代となる今、ブランドコンセプトを突き詰めるチャンスである。

 

企業におけるブランドとは「世の中に提供する唯一無二の付加価値」であるが、これを製品やサービス(モノ)だけで作ろうとすると難しい。企業には、顧客に支持されてきた部分や、社員が培ってきた歴史がある。この部分を掘り下げていくことで、企業ブランディングのヒントが見えてくる。

 

本稿では、私がお手伝いした自動車小売業Y社のブランディング事例を基に、企業ブランド価値を高めるための取り組みを紹介していく。

 

 

 

 

 

【図表】ブランディング手順の例

 

ターゲット・目的を明確にし目標達成手段を検討する

 

近年、自動車業界は「100年に1度の大変革時代」といわれており、少子高齢化による販売対象の減少や販売チャネルの変化といった課題を抱えている。この現状の中、Y社は将来顧客の囲い込みと新規リード獲得を目的として、各世代階層の会員化・コミュニティー形成などを行っている。ここでは各世代への取り組みの中でも、40~50歳のお父さん層に向けた集客ブランディングの一部を紹介したい。

 

囲い込みの目的は、ターゲット層の子どもがある程度大きくなり、自分の時間が持てるようになった時期に車種変更を検討できるようなコミュニティーを形成し、Y社の社員が購入までをサポートしていくことである。

 

また、この取り組みを進める上で、Y社は幹部だけでなく、店舗や技術者などからもメンバーを選出。プロジェクト形式で進めることで、幹部候補育成の要素も交えて実施した。

 

コミュニティー形成(会員化)とそのブランディングは、次に挙げる手順で進めた。

 

 

(1)ペルソナ(詳細なターゲット人物像)設定

 

まずはペルソナの設定から始めた。「40~50歳のお父さん層」「子どもは3~10歳」「趣味は野球・プラモデルづくり、キャンプ」「現在は○○の車に乗っているが、将来は□□な車種に乗りたい」「年収500万円」「服のトレンドにも敏感」などである。ペルソナを設定することで、メンバー間でターゲットとなる人物像を共有でき、ユーザー視点で議論、意思決定ができる。

 

(2)コンセプト決定

 

40~50歳のお父さん層のコミュニティー形成が目的なので、終業後に集まれる趣味に関するイベントを中心とするなど、「集まる目的」を明確にした。コンセプトを決定するプロセスでは、プロジェクトメンバーがキャッチフレーズを作った。例えば、「大人のためのコミュニティー」「新しい仲間たち」などである。

 

(3)プロジェクト名・ロゴ・キャッチコピー(副題)の決定

 

(1)、(2)で決めたペルソナとコンセプトを基にパートナーのデザイン会社と案を出し合い、メンバーで意思決定を行った。

 

(4)イベントの実施

 

コミュニティーのリアルイベントの店舗開催を実施した。各メンバーでターゲット層に刺さりそうなイベントの情報を集約。20種類ほどのイベントをフォーマットに落とし込み、その中から実施可能かつ効果のあるものを点数化して絞り込んだ。

 

(5)SNSコンテンツ・広告の活用

 

ここでは、主にランディングページの制作に注力した。ランディングページがあれば、訪問者が知りたい情報を1ページに集約できる。掲載内容はターゲット層が好みそうなコンテンツ情報を中心に構成した。

 

例えば、キャンプ情報や、皮革小物の加工イベントの情報をYouTubeと連動させて紹介。また、ターゲットに刺さりそうな趣味・趣向を考え、取材記事や動画関連本を紹介した。

 

もう一つの施策がLINEの活用である。QRコードを用いてLINE会員登録を促し、タイムラインでお得な情報提供やクーポン券の発行を行った。

 

(6)店舗・SNSでの集客

 

ここでの集客とは、会員登録とイベントへの参加を指す。イベントの告知において重要なのは、世界観に合ったリーフやポスターを作成し、社員がコミュニティーの魅力を説明できるトークマニュアルを充実させることである。

 

ここまでがY社におけるブランディング事例の詳細である。現在は効果を検証中だが、囲い込みと新規リード獲得の仕組みができたことや、このプロジェクトに関わるステークホルダーが増えたことで、さらにブランディング活動の幅が広がっている。

 

また、プロジェクトチームを編成したことが、積極的なアイデアとスムーズな店舗展開につながり、インナーブランディングの一助ともなった。

 

今後のY社の取り組みは、会員数の増加を目指すとともに、会員リストをさらにセグメント。さまざまな施策・仕掛けを施すリード育成やCRM(顧客情報システム)の活用など、最終目的である自動車販売へのインフラ整備を充実させる段階に入っていく。

 

以上、ブランドコンセプトの決定から集客プロセスまでを紹介してきたが、いくら良いコンテンツを手掛けても、社員の協力がなければこの施策の成功はあり得ない。本稿ではアウターブランディングを中心に話を進めたが、インナーブランディングについても自社で取り組んでいける部分を考えていただきたい。

 

 

企業DNAを醸成しサステナブル経営につなげる

 

ブランディングとは「自社の何を付加価値として提供すれば顧客に喜んでいただけるのか」「何をしたら社員が楽しいのか」を真面目に楽しく考えて世の中に普及させ、それを自社で継承していくことである。こうした「企業DNA」は何世代にもわたって継承され、自社の財産になる。持続的な経営のためにも、まずは顧客に長く愛される自社のブランディングについてあらためて考えていただきたい。

 

 

 

 

Profile
池谷 滋Shigeru Iketani
ブランディングコンサルティングにおいて、語り継ぎたい「志=企業のDNA(存在価値)」を明確にし、デザイン的なビジュアル視点や、コピーライティング、SNSなど、戦略実現に向けた全てのクオリティーを重視するトータルファシリテートを得意とする
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