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メソッド2020.05.29

人口減少時代における
地場ゼネコンのサステナブルモデル事例:百井 岳男

 

 

 

 

 

地場ゼネコンの現状と今後の見通し

 

新型コロナウイルスの災禍が世界を覆い、経済にも大きな影響を与えている。日本経済研究センターの「第46回中期経済予測(2019-2035年度)」(2020年3月25日)によると、世界で感染の影響が長引き、米欧での消費の自粛が広がるケースを想定すると、財政の下支えがなければ日本の実質GDP(国内総生産)は約4%減少するとされている。2008年のリーマン・ショックよりも深い経済的落ち込みだ。

 

あらゆる産業が新型コロナウイルスの影響を免れない状況にある。この危機が収束しても、突然V字回復することはないだろう。

 

そのような中にあっても、国内建設市場は引き続き底堅い需要が見込める数少ない産業だと言える。2021年7月に開催延期が決まった東京オリンピック・パラリンピックの再開発や、国土強靭化が進められ、その後も都市部を中心とした大型プロジェクトにより、短期的に建設需要が拡大する見通しだ。

 

建設資本ストックの維持・更新投資の観点から見ると、建設後50年以上経過する社会資本の割合は急速に拡大し、一定規模の建設需要が見込まれる。年々激しさを増す自然災害の頻発もインフラ更新の必然性を強く後押ししている。人手不足という供給制約が工事の進行を遅らせていることも、息の長い需要に一役買っているのだ。

 

地方と都市で経済状況が異なるように、地方を基盤とする地場ゼネコン(地方建設会社)と都市部の大型プロジェクトの担い手である大手ゼネコンも、足元の業績にそれほどの開きはないにしろ、長期的な見通しは大きく異なるだろう。それは、あたかもメガバンクと地方銀行の関係に似ている。人口減少と低成長に伴う資金需要の先細りで貸し出しの伸びが鈍り、利ざやの縮小が続く地方銀行の経営は、10年後の2028年には約6割が最終赤字に陥る見込み(日本銀行「金融システムレポート」2019年4月)である。

 

私は近年、所属する研究会での活動を通じ、多くの企業を視察・研究してきた。その中でも、地場ゼネコンが生き残る上で多くの示唆を与えてくれるモデル事例に遭遇した。本稿ではその一つである「加藤建設」の取り組みを二つ紹介し、地方建設会社の持続可能性の高いビジネスモデルを考察したい。同社は、独自の工法開発によって地方建設会社では群を抜く高収益経営を持続しており、創業100年以上の長寿企業でもある。

 

 

※大規模な自然災害などに備えるため、防災や減災、迅速な復旧・復興につながる施策を計画的に実施し、強くてしなやかな国・地域づくりを進める政府主導の取り組み

 

 

 

 

独自の工法開発で全国展開を推進

 

1912年に愛知県で創業した加藤建設は、「100年企業」の建設会社である。同社は、中層混合処理工法の「パワーブレンダー工法※1」などの地盤改良技術をはじめ、都市の地下などを施工する際の圧入ケーソン(立坑・基礎)技術の一つ「アーバンリング(分割組立型土留壁)工法」などを得意とし、全国で数々の実績を築いて高い評価を獲得している。

 

また、土壌・水質浄化など、環境負荷の低減・解消に向けたVE(Value Engineering)提案の実施や、自然の力を生かした技術開発に取り組む「エコミーティング」を提唱。全国への普及に努めている。

 

事業内容は、「コンストラクト事業(土木・建築)」「ジオテクノロジー事業(地盤改良)」「アーバン・イノベーション事業(圧入ケーソン)」の3事業で構成される。

 

1.軟弱地盤という悪立地が育んだ技術開発気質

 

加藤建設の歴史は水害との戦いであった。本社を構える愛知県南西部は、水運の要衝として知られる「東海の潮来」の町である。地下水位が非常に高い軟弱地盤であり、古来より浸水被害に悩まされてきた。この厳しい環境を克服するため、同社はパワーブレンダー工法など数々の地盤改良技術の開発を手掛けた。成長過程を見ると、ターニングポイントは大きく四つに分けられる。

 

(1)1959年
伊勢湾台風の災害復興に貢献し、地元の人々や建設省(当時)から認められる。

 

(2)1965年
同社の3代目代表取締役社長・加藤弘氏(現社長である加藤徹氏の父)が県外進出・全国展開を目指して舗装事業に進出。一時、多大な負債を負い経営危機に陥るが、高度経済成長の追い風に乗り躍進。現在に至る経営基盤を築く。

 

(3)1972年
「PCウェル工法※2」の技術を導入し、地盤改良工事へ進出。主力事業の基礎を確立。

 

(4)1979年以降
名古屋、東京、静岡に支店・営業所を順次開設。全国有数の軟弱地盤という悪条件と、時流を捉える先見の明を持った加藤弘氏の存在が、地場建設会社共通の課題である「差別化の壁」「全国展開の壁」を突破する原動力になったことがうかがえる。

 

加藤弘氏は、地元を商圏とする中小工事会社の成長限界を強く認識し、独自技術を獲得して同業他社との差別化を図った。全国展開も志向していたという。全国でまだ普及していない工法を自社に取り入れるとともに、段階的にオリジナルの工法開発へ結実させていったのである。

 

2.「ハードパワー」と「ソフトパワー」の融合

 

工法開発と併せて加藤建設の大きな特徴となっているのが、「エコミーティング活動」である。4代目の加藤徹氏が社長就任以来、注力している取り組みで、自然環境への配慮を工事に反映させる活動である。

 

具体的には、工事開始前に現場内や現場周辺を調査し、工事・営業・技術・環境担当のほか、事務担当者も加わりミーティングを行う。そして、自然環境とコミュニティーづくりに配慮した工事現場づくりのための「提案書」を作成する。この提案書を基に、現場の生態系を表した「環境掲示板」を現場で掲示。周辺住民への啓発を行うとともに、工事完了後もモニタリングを行い、可能な限り生態系の保全・復元に努めている。

 

生態系保全に手腕を発揮するビオトープ管理士は111名と、全従業員数の約4割にも及ぶ。この取り組みは各方面から高く評価されており、2012年に「愛知環境賞銀賞」、2015年に環境省「第3回グッドライフアワード『環境と企業』特別賞」、2020年には「日本自然保護大賞2020、保護実践部門」を受賞している。

 

特殊工法開発という「ハードパワー」と、自然との共生という「ソフトパワー」の融合により、「ソリューション型ビジネスモデル」を確立したのである。

 

優れた技術開発力と、環境と人に配慮する取り組みで高収益構造を持続している加藤建設。ぜひ同社の取り組みを参考に、持続性の高いビジネスモデルを構築していただきたい。

 

 

※1…土壌と改良材を垂直に撹拌・混合して地盤改良処理を行う工法
※2…円筒形のブロックを積み重ねて躯体を構築する工法

 

 

 

 

Profile
百井 岳男Takao Momoi
マーケティングを専門とし、経営診断・経営協力援助・集合教育と幅広く活動。マーケット調査のノウハウは屈指で、その情報分析能力は多くの企業から評価を得ている。自動車・産業機械・食品業界などの製造業を軸に、数多くの業種でコンサルティングを展開。建設ソリューション成長戦略研究会コーディネーターとしても活躍中。
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