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コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2020.03.31

企画の質を高める情報収集・活用術:植田 晃正

 

 

 

 

 

「問い」を持って物事を見る

 

「情報過多の時代」といわれるようになって久しいが、今は以前と比較できないほどの“超情報過多の時代”に突入している。インターネットで検索すれば、さまざまな情報を即座に閲覧できる。しかし、知りたい情報を探そうにも、ネット上には不正確な情報があふれている。また、情報を得たことに満足して活用できていない人も多い。少し大げさに言えば、必要な情報を適切に切り取って活用しなければ、生きていくことすら困難な時代になっているのだ。

 

こうした現代におけるビジネスシーンで、企画という仕事の質を高めるために必要なのは、世の中のトレンドに「アンテナを張る」ことである。これは「役に立つ情報をキャッチする」という意味合いで捉えてほしい。

 

自分の生活に関わることや興味があることについては、アンテナを張らずとも情報が入ってくる。例えば、定期購読しているニュースアプリからのプッシュ通知などである。問題は、生活に関わらないことや興味がないことに対して、どのように情報を得て、その情報を使えるようにするか。実は自分が知らない、興味がないことの方が新しい視点で情報を集めることができる。

 

自分が知らないジャンルの情報は、「どのような場所で売られているのか」「ペルソナ(商品・サービスを利用する顧客の中で最も重要な人物モデル)はどの年代に設定されているのか」など、ゼロから情報を得て分類していくことで、先入観のない視点を持つことができる。客観的に得た情報を見ることができれば、「この商品はどうすれば消費者に届くのか」とターゲットを想定した思考を深められる。結果的にプロダクトアウトの企画ではなく、マーケットイン発想の企画を作り上げることができるのだ。

 

反対に、自分が興味のある情報の場合、能動的かつ簡単に手に入れることができる。特に自分が多くの熱量を注いでいる事柄に関しては、誰もが一目置く専門家に見えるだろう。

 

しかし、ここで注意しなければいけないのは、好きなジャンルの情報は得てして消費者目線でしか物事を捉えることができない点だ。もちろん消費者目線は重要な視点ではあるが、企画側(生産者側)の目線が足りないため、今ないものを新たに生み出すことが難しい。

 

 

 

 

調べた情報と体験で得た情報を掛け合わせる

 

実際に私が企画をした際の体験を書いてみたい。

 

あるスポーツジムへ訪問した際、マーケティングの担当者から伺ったフィットネス業界全体の課題が、「入会者の50%が2カ月で退会してしまう」というものだった。しかし、私はスポーツジムへ通った経験がなかったので、なぜ志を持って入会した人のうち半数もの人が続けられないのか、正直ピンとこなかった。

 

そこで私はさまざまなスポーツジムへ体験入会し、その中で最も通いやすそうなスポーツジムに入会。「2カ月後、腹筋が割れていたりして」などと妄想しているうちに1カ月が過ぎ、いくつかのことに気付いた。

 

雨が降っている日や、同僚から飲みに行こうと誘われた日はスポーツジムへ行くモチベーションが極端に下がる。ロッカーに荷物を預けているため、プログラムの予約をキャンセルしてもなんら差し支えない。このことが、足が遠のく理由になっていると考えた。

 

またネットを中心に、競合ジムの経営状況や、コンサルティングを行っているジムの退会理由のアンケート結果など、情報収集を続けた。

 

2カ月が過ぎたころ、同じ顔触れの会員に気付くようになると同時に、何を目的にスポーツジムに通っているのか観察をスタート。失礼にならない程度に観察を重ねていくことで、スポーツジムの仲間とコミュニケーションを取ることが目的の人、黙々と体型維持に努める人、病院の診察待ち時間をジムでつぶす人など、曜日や時間帯によってさまざまな目的で通っていることが分かった。

 

このように、ありのままの事実を観察することで新たな気付きがあり、そこから特徴や改善点などを見いだすことができる。

 

私が実体験で他に感じたことは、スポーツジムで和気あいあいとしているのは常連の会員だけで、新規入会者は孤立している様子であることだ。同じ時期に入会した人でコミュニティーを作ろうにも、入会手続きは個人で行うし、誰が同じタイミングで始めたのかは見ただけでは分からない。その結果、1人で黙々と運動をして帰るだけの日々が続き、つまらなくなって退会してしまうのではないか。

 

そこで、「入会後どれだけ時間がたった人なのか」を見える化できれば、共通の話題が生まれやすく、通うモチベーションをキープできるのではと仮説を立てた。そこで、入会月が誰にでも分かるようにすることで、入会者のモチベーションダウンを抑える環境づくりを提案。この企画を基に、スポーツジムは「4月に入会した方には青色のタオルをプレゼント」「5月に入会した方には赤色のタオルをプレゼント」と、タオルの色で入会月を「見える化」するキャンペーンを実施した。

 

これは、客観的目線で幅広く集めた情報に、自分が体験することで得た情報を掛け合わせることで立案できた企画である。ネット上にある情報だけに頼っていては、決してたどり着くことができなかったと確信している。

 

 

 

全ての業務につながる「見えない仕事」

 

持っている情報の量と質によって企画の説得力は大きく変わってくる。得た情報が仕事に生きてくるには時間が必要なので、初めはアンテナを張る意味をなかなか見いだせないかもしれないが、続けることができれば必ず仕事の質は上がる。自分なりのアンテナの張り方を見つけ、試行錯誤していただきたい。

 

アンテナを張り、必要な情報を正しく得ることは、業種やキャリアに関係なく全てのビジネスパーソンにとって必要な能力である。また、現場で人の行動からニーズを探れば、課題解決のヒントを見つけ出すことができる。

 

情報を集めることは売り上げに直接つながらない「見えない仕事」だ。見えない仕事がなくとも、見かけ上、仕事を完遂することは可能である。しかし、ここに時間を費やしているかどうかで、成果のクオリティーはガラッと変わってくる。

 

ぜひ正しい情報の収集・活用術を習得いただき、成長角度が高く、継続的に結果を出すエース人材を目指していただきたい。

 

 

 

 

Profile
植田 晃正Akimasa Ueda
「クライアントと共に企業変革を実現する」を信条とし、最新のコンテンツを活用したブランドプロモーションで売り上げ向上に直結するコンサルティングを展開。インナーブランディングにおいては、仕組みに沿った各種施策を展開することで社内の基盤を構築し、強い組織づくりを推進している。
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