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メソッド2019.10.31

中期ビジョンとブランディングが 企業を変える:番匠 茂

 

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未来を具体的にイメージする重要性

2020年7月、約50年ぶりとなる東京オリンピック・パラリンピックが催される。2019年5月から観戦チケットの抽選販売も始まり、すでにワクワク・ドキドキしている人も多いだろう。

振り返ると、2013年9月7日に東京オリンピック・パラリンピック開催が正式決定した際、日本の将来・未来が明るく見えてワクワク・ドキドキし、気持ちが前向きになったことを、私は今でも鮮明に覚えている。

その時、私は「未来(ビジョン)を描き、そのビジョンでフォロワーをワクワク・ドキドキさせること」が紛れもなくリーダーの仕事であると感じ、未来を具体的にイメージすることで、人は物事に前向きに取り組むことができるのだとあらためて実感した。

コンサルティングでお会いする経営者の中には、「ビジョン・中期経営計画は思い通りにならないので作成しない」「考えても分からない未来の経営計画を作ることに価値を感じない」など、ビジョン・中期経営計画策定に対して否定的な意見を持つ向きも多い。経営者の考え方・価値観もそれぞれなので異を唱えるつもりはないが、「ビジョン」を示すことと、会社を「ブランディング」することは、経営者にしかできない、非常に重要な仕事ではないだろうか。

 

 

ビジョンで社会をより良くするという意思を示す

ビジョン・中期経営計画とは、あるべき姿(ビジョン)と現状とのギャップを分析し、そこから見える課題を具体的な施策と実行計画に落とし込む(中期経営計画)ことで、現状とのギャップを埋め、組織を持続的に成長させるためのものである。これを設定することにより、進むべき方向が明確になり組織の求心力につながる。

ビジョンを打ち出していない会社は、この重要性を理解していないのかもしれない。

以前、経営者A氏とディスカッションをした際、A氏はビジョン・中期経営計画策定の重要性について、こう述べていた。

「自社よりも小さく、お金がない会社と付き合う企業は少ない。だが、ビジョン・中期経営計画を作り、社員や外部に打ち出すことを継続していくと、それに共感・共鳴してもらえるようになる。すると、自社よりも大きく、お金を持っている会社から、または、社長よりも優秀な人材から、『そのビジョン達成のために働かせてください』と声が掛かる」

これこそがビジョン・中期経営計画の力ではないだろうか。

人も企業も、会社のビジョンや方向性、考え方に共感し、社会をより良くしたい(貢献したい)という流れになってきている。

特に最近はこの傾向が非常に強く、中小企業でもM&A、経営統合、提携などは戦略オプションの一つとなっている。

ぜひ、社員とともにビジョン・中期経営計画を作り、社員がワクワク・ドキドキする会社を目指すという意思を持ってほしい。

 

 

 

【図表】プッシュ型セールスとプル型セールスの違い

ブランディングで事前価値を高める

私は、ブランディングとは自社・商品・サービスの事前価値を高める取り組みだと認識している。

「取引して、初めて貴社が良い会社だと知りました」「貴社の商品を使用して良い商品だと分かりました」「貴社に入社して良い会社だと感じました」。確かにうれしい言葉ではあるが、重要なのは取引する前に自社の良さを理解してもらうこと(自社・商品・サービスの事前価値を高めること=ブランディング)である。

企業価値を高めるための取り組みの変化として、ここ20年間で他の機能と比較して最も変わっていなかった「販売・営業」のやり方が大きく変わろうとしている。「プッシュ型セールスからプル型セールスに変える」とかなり前から言われていたが、実際はガチガチのプッシュ型セールスが多く、大きな変化はなかった。

しかし、直近の3?5年を見ると、電話アポイントメントや訪問営業で顧客との接点を作ることにより会社訪問へとつなげ売り上げを獲得するプッシュ型セールスではなく、事前に自社の商品・サービスを知ってもらった上で購入を促すプル型セールスに変わりつつある(【図表】)。インターネットやSNSの浸透により、顧客が商品やサービスを時間をかけて知ったり、選んだりすることが可能になったからだ。

その結果、顧客は商品やサービスについて非常に詳しくなっており、余計な説明(プッシュ型セールス)はかえって不快に感じる。しかし、企業側は「昔のやり方で頑張れば頑張るほど顧客は離れていく」ということに気付いていないケースもある。

企業主体の営業から顧客主体の営業に変わる時代において、経営者や営業責任者は、従来の販売・営業方法を変えていかなければならない。

昔はテレビCMや新聞・雑誌への広告など、非常にコストが高い上に効果も見えにくい媒体が多かった。だが、現在は低予算で効果の高い、自社の顧客ターゲットに絞ったブランディング活動ができるようになっている。これもインターネット・SNSの浸透があってこそだ。これを活用しない手はない。

ビジョンを打ち出し、社員をワクワク・ドキドキさせ、ブランディングで顧客に事前価値を提供し、成長する。経営者にはそういったビジョン策定とブランディング活動に、ぜひ重点的に取り組んでいただきたい。
 

 

 

 

 

Profile
番匠 茂Shigeru Banjyo
長年にわたる営業部門での経験を生かし、各企業の経営コンサルティング、幹部人材の育成などで活躍中。トップ・幹部と一体になった実践的な取り組みにより、クライアントへの熱い思いをベースに進化を実現。数多くの成長企業を支えている。
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