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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2019.08.30

「生産性カイカク」を実現する三つのアプローチ:近藤 正晴

 

コンサルティングの現場で、最近よく「働き方改革に取り組んでいます」「一人一人の生産性向上に努めています」というフレーズを聞く。現在、企業に最も共通する課題は「働き方改革」と「生産性向上」のようだ。

2019年4月から、政府主導による長時間労働の是正、残業時間の上限規制、同一労働・同一賃金、年次有給休暇の取得義務化といった働き方改革が始まった。その経営環境の中、企業は今までより短い時間で業務を遂行しつつ、業績も向上させなければならない。だからこそ、労働の質を改善し、密度を濃くしていく必要がある。「働き方改革=生産性向上」なのである。

シンプルに言えば「時間は短く、付加価値はより高く」。実現の鍵を握るのは、生産性の視点からビジネスモデルや社員の働き方、人づくりの在り方をデザインし直すことだ。

現在はICT(情報通信技術)を活用することで、産業や業種の壁を超えたソリューションが生まれている。デジタル技術を最大限に利用して新たな仕組みをつくる、あるいはその仕組みを最大限に活用して生産性を向上させること――つまり、旧来の改革とは異なる「カイカク」を図ることが、企業に求められている。

タナベ経営では、生産性カイカクには三つのアプローチがあると提言している(【図表】)。これらのアプローチによって生産性を向上させ、自社の社風をもカイカクしていきたい。

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働き方・制度(仕組み)による生産性カイカク

1.5S・見える化

5S・見える化は、ムダ取りの代表例である。徹底した「整理」「整頓」で探すムダ、運ぶムダが解消される。また、基本であるワンロケーション、ワンファイルなどの「ワンベスト原則」を実施すると、効果がさらに高まる。

2.業務改善

最初のステップは業務フローの洗い出しである。顧客や商品・サービスごとに異なる業務フローを把握し、①重複、②過剰、③旧式、④不要の着眼でネックとなる業務(工程)を探し、改善する。システム改善の前に、社内ルールの改定、二重業務や価値の低い業務の改廃による業務時間の圧縮など、効率化できる内容がある。

次に、業務内容を洗い出して業務の価値評価を行い、社内マネジメントを確立する。そのためにも、業務の内容を、

①バリューアップ業務
十分な時間を費やし、最高のパフォーマンスを発揮するべき業務

②スキルアップ業務
業務時間を計画段階であらかじめ確保しておく業務

③スピードアップ業務
段取りよくこなして“合理的に手抜き”をする業務

④クリーンアップ業務
やめるか、社内外へのアウトソースを検討する業務

――に分類する必要がある。

3.人事制度改定

人事制度の改定も、生産性カイカクの一つである。最近、就業形態は「変形労働」「フレックス」「在宅勤務」「サテライトオフィス勤務」など、さまざまなタイプが登場している。いずれにせよ、企業の特性だけでなく、社員が働きやすい環境をつくり出すことが重要なのだ。

人の生産性は、モチベーションによって大きく変わる。個人のスキル活用、モチベーションアップ、生産性の高い社風づくりを目的に、人事制度を見直そう。

4.改善活動(チーム・プロジェクトなど)

チームやプロジェクトによる改善活動には、多くの企業が取り組んでいる。だが、長続きしなかったり、毎年同じ内容の繰り返しで活動自体が膠着していたりすることがよくある。

毎月の成果をモニタリングし、少しでも変化している部分を見つける。効果を見せることで、活動に意義を持たせ、「自分たちの職場は自分たちで改善する」という社風を醸成する。

 

 

デジタルテクノロジー・自動化による生産性カイカク

1.RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)

一言で言うと、「デジタルレイバー」(仮想知的労働者)である。人が行う間接業務の定型プロセスをAIが反復学習し、より効率的な方法で自動的に再現するシステムだ。

定期販売商品の見積書作成、経理の月次処理、大量データ入力などの業務は、RPAによって自動化が可能である。ヒューマンエラーを防ぎ、業務処理スピードも圧倒的に上がる。

2.オートメーション化(無人化・省人化)

単に機械を入れて効率化するのではなく、「本当に人がすべき仕事は何か」を考えなければならない。設備投資は、投資額の大きさゆえにひるんでしまうことも多いが、人材不足や技能伝承、安全性の課題と捉えれば選択肢の一つとなる。

重要なのは、「人時生産性」という考え方だ。総労働時間を生産高や加工高、売上高で割る。「作業員1人が1時間当たりでどれだけの仕事をしたか」を示す指標である。機械化・自動化により、どれだけ人時生産性を高められるかが判断基準となる。

3.システム構築(生産管理・販売管理)

生産管理システムは、注文の変更や営業部門からの納期短縮要望など、生産計画の変更にも柔軟に対応し、生産計画を基に原材料の所要量を算出できるものでなくてはならない。

販売管理システムは、見積もりから受注、発注仕入れ、売り上げに至るまでのプロセスを一元化することによって、各部門の業務効率や業務フローの最適化をサポートできるようになっているかが重要である。

 

 

ビジネスモデル改革による生産性カイカク

自社のビジネスモデルを改革し、付き合う顧客を決める「ターゲット(顧客)変更」と、一連の流れを改革する「バリューチェーン構築」である。

1.ターゲット(顧客)変更

現在のビジネスモデルの「ターゲット(顧客)」を変更することで生産性の向上を図る。営業工数やノウハウ蓄積、業務の簡素化などによって、自社全体の生産性を上げるのだ。

顧客を、全業界から特定の業界だけに特化したり、個人客から法人客へ変えたりすることにより、業務自体の在り方を変える。

2.バリューチェーン構築

プロセス(機能)ごとで最大のバリューが発揮されるように仕組みを変え、全体の生産性を上げる。

バリューチェーンとは、「顧客にとっての価値を創造する活動」という切り口で事業を分解し、マーケティング、企画開発、営業、調達・購買、製造、物流といった各活動の特徴を正確に把握した上で、それらの活動の連鎖を再構築するフレームワークである。まさに「価値(バリュー)の連鎖(チェーン)」だ。企業の全ての活動が最終的な価値にどう貢献するのかを、体系的かつ総合的に検討し、より競争優位をもたらすにはどのような戦略をとればよいかを導き出す。

これからは「生産性向上」ではなく、「生産性カイカク」に取り組んでいただきたい。

Profile
近藤 正晴Masaharu Kondoh
トップ・幹部と一体になった経営視点からの生産性改革コンサルティングで幅広く活躍中。組織力を高めるマネジメントシステムの構築を通じ、人材の育つ社風と進化し続ける企業づくりを推進、多くの実績を持つ。「全ては基本動作から」を信条に、現場主義の取り組みで、社員のモチベーションアップや営業力強化を実現している。生産性カイカク研究会リーダー。
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