事業評価指標による
ポジション別の事業戦略判断(後編)
鈴村 幸宏
2019年8月号
ROIC経営によるファイナンス思考
ROAやROEは、キャッシュ(現金)の流れや調達コスト(資本コスト)の視点が欠如しているとの考え方から、キャッシュフロー重視の「FCF」(フリーキャッシュフロー=自由に使える現金の量)や、企業の資本コスト重視の「EVA」(経済的付加価値)、「ROIC」という指標が、上場企業を中心に重要視されてきている。
このうちROICは、投下資本をバランスシート(貸借対照表)の借方、貸方のいずれで捉えるかによって、定義付けは異なる。投下資本を「投資家から調達した資本」と捉える場合は、調達サイド(貸方)の「有利子負債+自己資本」を投下資本(?)と捉えるのが一般的である。一方、「実際に事業で活用している資本」と捉える場合は、バランスシートの運用サイド(借方)の「運転資本+固定資産」を投下資本(?)と定義する。
本来、両者は一致すべきであるが、現実には非事業資産がバランスシートに含まれていることが多く、「有利子負債+自己資本」=「運転資本+固定資産」とはならない。そのため全社のROICは投下資本?、事業別ROICは投下資本?で計算されるケースが多い。
ROICに対応する資本コストは、「WACC」(加重平均資本コスト)である。これは企業全体の資本コストで、借り入れに要するコスト(負債コスト)と株式調達にかかるコスト(株主資本コスト)を加重平均して算出される。端的に言うと、資金を1円調達するのにコストがいくらかかっているかを示す。
ROICからWACCを差し引いたものを「ROIC Spread」と呼ぶ。ROICがWACCを上回っていれば、資本提供者にとって企業価値が創造されていると言える。(【図表2】)
「会社の企業価値を最大化するために、長期的な目線に立って事業や財務に関する戦略を総合的に組み立てる考え方」をファイナンス思考と言い、ROICを重視したROIC経営はファイナンス思考の経営と言える。