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メソッド2019.07.31

潮目が変わった?
外食倒産件数から見る働き手不足の現状と改善着眼:ストラテジー&ドメイン東京本部

 

2019年4月1日から「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が順次適用され始めた。読者の皆さまも、さまざまな思いで対応をとられているだろう。

私のクライアントである外食企業A社は、早速、改正法で定められた計画有給休暇の設定を全社員に発信した。すると、社員から「毎月の公休(会社の設定した休日)も消化できていないのに、先に有休を設定するのはナンセンスではないか」との問い合わせがあったという。休暇が増える社員側にも戸惑いがあるようだ。

 

市場規模は拡大するも倒産件数は急増

最近、外食企業の経営相談で特に多いのが、業績対策である。経営環境が厳しいのだろうか。近年の外食市場規模と倒産件数(【図表】)を見てみよう。

【図表】外食市場規模と外食関連業者倒産件数の推移

出典:食の安全・安心財団「外食産業市場規模推移」、帝国データバンク「特別企画:外食関連業者の倒産動向調査」よりタナベ経営作成

出典:食の安全・安心財団「外食産業市場規模推移」、帝国データバンク「特別企画:外食関連業者の倒産動向調査」よりタナベ経営作成


実線の折れ線グラフは、いわゆる狭義の外食市場規模で、一般飲食店や給食、居酒屋などが含まれる。1997年をピークに減少し、一時期は「外食産業は斜陽産業」などといわれていた。グラフを見ると、底を打ったようには見えるものの、2000年に比べると回復したとまでは言えない。


点線の折れ線グラフは、広義の外食市場規模。狭義の外食産業と中食(料理品小売業)が含まれる。これを見ると、2000年の約32兆円という水準を2017年に上回っている。


一方、棒グラフは外食企業の倒産件数を示している。2008年から2014年の間に毎年600社以上の企業が倒産したものの、2015年と2016年は減少傾向だった。しかし、2017年には突然、前年比150件増(26.9%増)となり、2000年以降で最多の倒産件数を記録した。


つまり、このグラフからは、外食の市場規模が拡大傾向であるのに対し、外食企業の倒産件数は急増したことが読み取れるのだ。

 

 

人手不足倒産の入り口か

グラフには、大きく潮目が変わった年を感覚で思い出しやすいよう、主要な出来事をいくつか記してある。

一つ目は、米同時多発テロ事件が起こった2001年である。この年から増加傾向にあった外食企業の倒産件数は2007年に急増し、2008年以降は600社を超える水準になった。2008年9月にはリーマン・ショックがあったが、その前年から景気動向は危ぶまれていた。

二つ目の潮目は、東日本大震災に見舞われた2011年と、第2次安倍内閣が発足した2012年である。2011年を底に、狭義・広義の外食市場規模は共に回復に向かっていた。また、倒産件数も2012から減少傾向に転じた。

そして2017年。経済動向としては、日経平均株価が好調で、ビットコインが高騰した年だった。私は、この倒産件数の急増は、「外食企業の人手不足倒産」という新たな潮目ではないかと読んでいる。

 

 

 

働き手不足の現状

かつて外食産業は、人材を大量に採用して、辞めてもまた採用するといった形で労働力を確保し、労働者を低賃金で雇うことによってビジネスを成立させていた。2013年にはワタミが、そして2014年にはゼンショーホールディングスが、「ブラック企業」という言葉とともに、その労働環境をセンセーショナルに報道されたと覚えている方も多いだろう。ただ、これは採用において企業側が優位だったから起こり得た現象とも言える。

2017年度の状況を確認すると、東京都の職業別常用有効求人倍率は、「飲食物調理の職業」が6.29倍、「接客・給仕の職業」は8.65倍だった(厚生労働省東京労働局)。それに対して全職業の全国平均は1.54倍。飲食業界は完全に働き手優位の状況である。さらに2018年度はこの傾向が加速している(「飲食」6.49倍、「接客」8.92倍。全国平均は1.62倍)。

某上場外食企業では、営業時間の長い店舗のスタッフが慢性的に不足し、QSC(クオリティー・サービス・クレンリネス)が低下してクレームが多発。売り上げも減少したため、追加人員を投入できずに業績が悪化し、他社に買収されてしまった。

また、異業種参入で飲食店を開業したものの、店舗スタッフがボイコットして集団退職し、休業を余儀なくされるといったことが散見された。

現在も働き手不足は解消せず、多くの飲食店は営業時間の短縮やメニューの削減を行い、閉店も相次いでいる。この状況の中、施行されたのが働き方改革関連法である。

「36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)」という逃げ場があり、実質上、罰則もなかった状況から一転。中小事業者には猶予期間があるとはいえ、改正法では時間外労働の上限が罰則付きで規定された。

このため、A社のように「公休も消化できていないのに、計画有休を設定する」というシュールな展開になっている企業は少なくない。

※1週間で15時間、1カ月で45時間、1年間で360時間が上限だが、「特別条項」を付帯することによって、上限を超えた時間外労働をさせることができる

 

 

 

働く人に選ばれる企業になろう

タナベ経営では、「お客さまは来てくれないものだ」「従業員は来てくれないものだ」を経営の原理原則として提言している。今の働き手不足の現状に際しては、まさにこの原則を理解しておくことが重要だ。

しかし、残念ながらそうではない企業は多い。外食企業の店長会議では、「週5日フリーで働けるパート社員が2人いれば、シフトは回ります」など、そもそもなり手がないような条件の人材に期待する風潮がまん延している。そして毎月、求人媒体に惜しみなく予算を垂れ流してしまう。

ここで私は、「働く人に選ばれる企業への転換」を強く推奨したい。そのための着眼は次の3点である。

①現在働いているスタッフの退職防止
②新規スタッフの受け入れ態勢を確立
③リファラル採用(現スタッフや関係者からの紹介採用)の実施

自社のスタッフが「大切な友人や親戚にも働いてもらいたい」と思える企業を目指し、人手不足倒産を回避していただきたい。

 

 

 

 

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