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メソッド2019.05.31

「限界突破」のためのゾーン選択:公文 拓真

 

【図表】ゾーンの3区分

出典:筆者作成

「コンフォートゾーン」という“停滞領域”

組織の中には、「デキる人」と「イマイチな人」が存在する。読者の会社の中でも一定数、存在していると思う。職場だけではなく、例えば学校や官公庁を含めた、ありとあらゆる“組織”において、その2者を分かつものは何なのか。今回は、「コンフォートゾーン」という切り口から、「超一流」になるためのアプローチを解説する。

コンフォートゾーン(快適領域)とは、本人にとって「居心地の良い環境」という意味である。ストレスや恐れ、不安を感じることがなく、安心して過ごせる環境を指す。

ストレスが僅少なコンフォートゾーンに安住し続けている限り、人間は成長を見込めない。なぜ、コンフォートゾーンでは成長できないのか?それは、現在の生活環境を保とうとする潜在的な力が働く半面、それ以上のレベルへ向上しようとする意識を奪ってしまうためである。

 

 

コンフォートゾーンからラーニングゾーンへの脱出

コンフォートゾーンから抜け出して、どこに向かえばよいのか。ミシガン大学ビジネススクール教授のノエル・M・ティシー氏が提唱したコンセプトによると、コンフォートゾーンの外側に「ラーニングゾーン」、さらにその外側に「パニックゾーン」という、合計3つのゾーンがあるとされている。(【図表】)

ラーニングゾーンとは、別名“ストレッチゾーン”とも呼ばれる。コンフォートゾーンを抜け出した外側にあるもので、今までのスキルセット(自分が有する知識や技術)があまり通用しない、未知の環境である。言い換えれば、自己成長の領域と定義できる。

未知の事象と遭遇し、それに対処するための判断力・能力などを必要とする。失敗するリスクがある代わりに、成長というリターンを受け取ることが可能な領域である。

一方、パニックゾーンとは、ラーニングゾーンのさらに外側に位置する領域だ。スキルセットが通用しないだけでなく、自分の身に降りかかる事象を把握できず、コントロールすることもできない環境である。ここでは肉体的・精神的な負担が大きくのしかかり、心身にも変調を来しかねない。

成長するために目指すべきは、ラーニングゾーンである。環境の変化で一時的にパニックゾーンに身を置くことはあるかもしれないが、パニックゾーンに居続けてはいけない。必要以上の刺激やストレスを受け続けることになる。

私の趣味の「筋トレ」で例えてみよう。単純な話、現在の筋肉の能力が「100」だとしたら、101の刺激を与えるだけで筋肥大(筋肉の体積増加)が起こる。しかし、筋トレはやればやるほどよいわけではない。

ここで200の負荷を与えれば、より筋肥大が起きるのかというと、そういうわけではない。むしろ余計な刺激はオーバーワークのリスクが急激に高まるのである。

成長のための環境負荷も、同様のことが言える。


 

コンフォートゾーンからの抜け出し方

コンフォートゾーンから、ラーニングゾーンへと移行するためには、まず自分がコンフォートゾーンに身を置いている状況を把握することが必要となる。多くの人は、そもそも自分がコンフォートゾーンにいることを自覚していない。

自分がどのゾーンに位置しているかを理解するには、自分自身のあるべき姿(ビジョン)の設定が不可欠となる。自分はどういう人間になりたいのかというビジョンから、現状とのギャップを認識する。それによって、自らの置かれたゾーンを把握できるのである。

現状認識の方法には、「主観的な感覚から判断する」という方法もある。分かりやすく言えば、取り組んでいる業務にキツさを感じなくなってきたら、環境を変えるサインである。この他にも、ここ半年ほど困難や問題にぶつかっていないなど、成長するためのきっかけがなかった場合もコンフォートゾーンにいる可能性がある。

また、第三者(外部の人が望ましい)から定期的に客観的評価をしてもらうという手段がある。

コンフォートゾーンから抜け出して、ラーニングゾーンへと移行する上で重要なことは、「自分がどうなりたいのか」を明確にすることである。人間としてさらなる成長を遂げたい、新しい経験を積み重ねて視野を広げたい、などとコンフォートゾーンから抜け出すことで得られることを具体的にイメージするのだ。安寧な環境を脱してまで、成し遂げたい・チャレンジしたいという目的を持つことが重要なのである。

成長とは、ベクトル(向かう方向と勢い)ありきである。もし、それがなければ、日常業務に忙殺され、成長に寄与しない過酷な労働環境まで“ラーニングゾーン”だと勘違いをしてしまう恐れさえある。

 

 

戦略的な負荷の設定が人の能力を伸ばす

コンフォートゾーンから抜け出すことについて書いてきたが、誤解してほしくない点がある。それは、より高みに向かって大きく成長する方法は、「自分をできる限り、厳しく追い込む」ことではないという点である。

生理心理学では、過度なストレスはパフォーマンスを低下させるものの、適度なストレスは逆にパフォーマンスを向上させることが知られている(ヤーキーズ・ドットソンの法則)。ストレスがなさすぎると人の能力は成長しない。さりとて、ストレスが高すぎても能力は伸びない。むしろ少しだけ負荷(ストレス)をかけた方が、最適なパフォーマンスが発揮され、能力も早く伸びるのである。

コンフォートゾーンから抜け出すためには、「自身の長期的な成長ビジョン」に基づいた「長期・戦略的な負荷設定」が重要であり、ラーニングゾーンで自身のキャパシティー(受容力)より少し上の「天井」をコツコツたたき続けることが、超一流の人材になるための近道なのである。

故に、超一流の人材を育てるためには、まず部下の能力とキャパシティーを正確に把握し、その能力を“少しだけ超えた”適度な負荷を与え続けてあげることが肝要となる。同時に、自身の成長のためにも、置かれている現状に甘んじることなく、常に“自身の外側”を目指して挑戦し続けるような、変化を求める姿勢で今後の人生を歩んでいただきたい。

 

 

 

 

Profile
公文 拓真Takuma Kumon
銀行出身。リテールからホールセールまで融資・預金・投資部門を担当。タナベ経営入社前では、上場企業向けのシンジケートローンやプロジェクトファイナンス、M&A業務に従事していた。タナベ入社後は主に財務分析を中心とした財務戦略や中期経営計画策定支援、原価管理による収益構造改善に取り組むとともに、タナベ経営の戦略ドメイン研究会の一つである「経営の見える化研究会」に所属している。
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