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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2018.12.27

適切な内容を適切なタイミング、適切な媒体で伝える:小泉 博史

 

売り上げ拡大や人材採用に直結するマーケティング

経営者や現場の担当者とディスカッションをしていると、「マーケティング」や「プロモーション」への関心が以前よりも高まってきていることを実感する。それは、従来の売り上げ拡大、つまり自社の商品・サービスの価値をターゲットに訴求し、「顧客獲得」と「単価アップ」を目的としたものだけではない。例えば、会社の魅力を社会に対して訴求し、優秀な人材を集めようとする、いわば「採用マーケティング」の観点からも関心が高まっている。

 

「投資効果」がなかなか表れない

しかしながら、実際、マーケティングに関心を持ち、力を入れている企業の全てが成果を上げているかと言えば、そうではない。

「商品・サービス紹介のためにホームページを作成した」「リピート顧客を狙ってアプリを導入した」、あるいは「大手就職サイトと契約した」など、積極的にメディアへ投資し、プロモーションを行っても、期待した効果が表れない企業は多い。私がコンサルティングを手掛けているA社もその一つであった。

A社はクリーニング業を営んでおり、このほど自社のホームページをリニューアルした。また、会員顧客にクーポンやキャンペーン情報を提供するアプリを導入するなど、Webプロモーションを中心に積極的な施策を打った。しかし、結果は期待通りのものではなく、ホームページの閲覧数はリニューアル前とほぼ変わらず、アプリ会員数も伸び悩み、売り上げは減少した。

 

カスタマー視点と訴求タイミングの欠如

A社の問題は、大きく2点あった。

1点目は、ホームページに「カスタマー視点」がなかったことである。A社のホームページの内容のほとんどは工場の機械・設備の画像であり、それを難解な専門用語で説明していた。自社の技術力の高さの根拠として掲載していたようだが、一般消費者が関心を持つには難しい内容であった。

2点目は、メディアへの訴求のタイミングが悪かったことである。

フィールドインタビューを実施したところ、新規顧客は、A社自体を認知している人が少なかった。また、既存顧客に関しては、ホームページやアプリの存在を知っている人が圧倒的に少ないことが判明した。

つまり、A社自体やホームページの認知度が低いため、カスタマーがそもそもホームページを検索しようとしていなかったのである。もし、これがA社やホームページ、アプリ自体の認知が高い状態であったならば、来店効果は出ていただろう。

前者の「カスタマー視点の欠如」に関してはペルソナの設計、後者の「メディア訴求のタイミングの悪さ」に関しては、カスタマージャーニーに基づいたメディア戦略を行うことで改善に取り組んだ。

【図表】ペルソナの設計方法201901_review3_01
 

 

ペルソナを設計してコンテンツを作成する

カスタマー視点の欠如を解決するために、最も重要なことは、ペルソナを設計することである。「自社の商品やサービスを購入してほしい顧客の特徴」、つまり年齢や情報や住所、職業のようなプロフィール情報と、「何に関心があり」、「何に困っているのか」、「普段どのような生活をしているか」などのライフスタイル情報を掛け合わせ、設計していく。

具体的な設計の仕方は、まず定量的情報の収集として、顧客データや公的機関の統計データを活用しながら、自社のターゲット顧客となりそうな層を整理していく。次に定性的情報の収集としては、ターゲット層に直接インタビューを行ったり、日頃、顧客と接点がある現場のスタッフにヒアリングしたりするなどして情報を収集していく。収集した情報の共通点や傾向を整理し、1人の架空の人間を設計していくという手順を経て、ペルソナは完成する。(【図表】)

ペルソナを設計することのメリットは、カスタマーを意識したコンテンツが作成できる点である。A社の1点目の失敗は、このようなペルソナを設計していなかったため、本来のメインターゲットの主婦が好む内容をコンテンツに盛り込めなかったのである。A社は、「子どもの健康に気を使う32歳の主婦の佐藤律子さん」というペルソナを設定することで、主婦層にとって魅力のある「安全で自然に優しい洗剤」という情報がホームページに加わることになった。

 

 

カスタマージャーニーに基づきコンテンツを配置

カスタマーのペルソナを設計した後は、そのペルソナの「認知」から「行動」までを想像しながら、メディアを設定・配置していく必要がある。この際、「カスタマージャーニー」という考え方が有効だ。

これは、顧客が商品・サービスを認知し、その後、さまざまな接点を経て関心を持ち、比較・検討して購入に至る一連のプロセスを、「ジャーニー(旅)」に例えたものである。

カスタマージャーニーを活用すれば、どのタイミングで、どのような内容を、どの媒体で訴求すればよいのかが見えてくる。A社の事例では、そもそも店やホームページの認知がなかったため、効果が出なかった。この点に関して、チラシによって店の認知をアップさせることに加えて、ホームページやSNSに詳細な情報があると訴求することで、A社の来店効果は改善していった。

マーケティングやプロモーションを展開していく中で、カスタマー視点は何よりも原点となる。自社の商品・サービス、もしくは企業自身の魅力を伝えていくために、いま一度、カスタマー視点に戻って戦略を考えてはいかがだろうか。

 

Profile
小泉 博史Hirofumi Koizumi
「企業の思いの実現・達成」を信条に、企業のマーケティングをサポート。広告などのプロモーションのみではなく、ブランドコンセプト、商品・サービスづくり、人づくり、オペレーションの改善までを推進する。企業と顧客を結び付ける「価値」を創造するパートナー。
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