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メソッド2018.12.27

ものづくり企業が目指すべき「経常利益率10%モデル」:浜岡 裕明

経常利益率10%の意志

 

 

財務省の「法人企業統計調査(金融業、保険業を除く)」によれば、2018年4~6月期の製造業の経常利益額が10兆4766億円、前年同期に比べ27.5%増と大幅な伸びを示した。四半期ベースの経常利益額が10兆円台に到達したのは初めてのことである。また、売上高経常利益率(以降、経常利益率)は10.6%となり、こちらも過去最高を更新した。

 

だが、経常利益率を資本金規模別に見ると、収益力は大きく二極化する。中堅企業(1億~10億円未満)は5.7%、中小企業(1000万~1億円未満)は5.8%、それに対し大企業(10億円以上)は14.0%だ。中堅・中小製造業の収益力は、大手製造業の半分以下の水準にとどまっているのが実態である。(【図表】)

 

【図表】製造業/経常利益率の推移

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注:大企業/資本金10億円以上、中堅企業/同1億~10億円未満、中小企業/同1000万~1億円未満
出典:財務省「四半期別法人企業統計調査(金融業、保険業を除く)」

 

タナベ経営は、企業がファーストコールカンパニーを目指す上で、「経常利益率10%への意志が大切」であると提唱している。その理由は、大きく3つある。

 

1つ目は、「つぶれない会社を作るため」である。他人資本を減らして、バランスシートを整えるためにも、継続して利益を上げていく必要がある。

2つ目は、「会社の未来を創るため」である。高収益企業を見ると、設備投資額は大きく、事業開発投資も大きい。これは“もうかっているから”ではない。人材育成投資、ブランディング投資、採用投資、職場環境への投資が大きいのだ。この投資の差は確実に、未来の差になる。

 

そして3つ目の理由が、「変化へのコストづくりのため」である。事業の永続性を考えると、長期レンジで経営を考える必要がある。長期レンジでは、経済・技術・価値観・社会課題など、さまざまな変動因子が企業経営に変化を迫ってくる。そうした変化に対し受け身でいるだけでは、事業の永続性は担保できない。

 

自ら進んで変化を起こしていかないと、企業の存続は難しい。変化をするにはコストが必要だ。そのためにも、利益は未来への存続コストとして捉える必要がある。

 

 

3つの経常利益率10%モデル

 

グローバル化の加速や価格競争、人口減少に端を発する市場の縮小、高齢化による生産性停滞と働き手不足、人々の価値観の多様化、そしてAIやIoTなど先端技術の進化など、日本のものづくり企業に迫る経済構造変化の波は年々大きくなってきている。もはや過去の延長線上に未来はなく、まさにいま、未来へ向けて一歩を生み出さねば取り返しのつかない岐路に立たされていると言っても過言ではない。

 

私が参画している「ものづくり研究会」では、これからのものづくり企業の在り方について研究を行っている。その事例をまとめていく中で、高収益を上げている企業の収益モデルにはパターンがあることに気付いた。

 

それは、いずれの企業もデジタル技術を積極的に導入するとともに、外部とのアライアンスやバリューチェーン(価値連鎖)の最適化を進めながらも、人中心の経営を行っていること。また、近未来(2030年)の経営環境や社会と顧客の課題を見据えて、自ら変化を起こしている。その上で、経常利益率10%を確保しているのである。

 

そうしたものづくり企業のモデルを大きく3つに分け、紹介したい。

 

(1)高粗利益ファブレス型モデル
1つ目の経常利益率10%モデルパターンは、「高粗利益ファブレス型」だ。このモデルで経常利益率10%を実現するための基準値としては、「粗利益率40%・労働分配率40%」である。ファブレス型で粗利益率40%を実現するためには、バリューチェーンの入り口と出口に当たる、開発機能と顧客ニーズを押さえることが重要である。さらに少数精鋭主義で、労働分配率を40%以下に抑えることで、経常利益率10%を実現できる。

 

(2)高付加価値・低粗利益・設備コスト型モデル
2つ目のモデルパターンは、「高付加価値・低粗利益・設備コスト型」である。このモデルは、戦略的に機械・デジタルシステムなどの設備へ投資をし、結果として製品・サービスに付加価値を乗せることができている。生産性を最大限に高め、極力、人への依存を減らすことが大切だ。

 

例えば、「コスト情報」「製品情報」「スケジュール情報」「生産情報」という4つの情報の流れを業務フローに落とし込み、ムダなく、モレなく、ダブリのない状態でインプットとアウトプットの最適化を進めていき、生産性を高めることが重要である。このモデルで経常利益率10%を実現するための基準値としては、「限界利益率65%・労働分配率30%・粗利益率25%・販管費率15%」である。

 

(3)高付加価値・低粗利益・人的資源コスト型モデル
3つ目のモデルパターンは、「高付加価値・低粗利益・人的資源コスト型」だ。このモデルは、機械だけでは対応できない製品を製造するようなグループである。ただし、このモデルを実現するための条件は、顧客ニーズを的確に押さえるマーケティング力と、自社製品の価値を認めさせるためのブランディング力による、“製品+サービス”のビジネスモデルの展開が重要となってくる。

 

このいずれかが不足すると、たちまち価格競争に陥って収益モデルが崩れてしまう。このモデルで経常利益率10%を実現するための基準値としては、「限界利益率65%・労働分配率50%・粗利益率25%・販管費率15%」である。これは換言すれば、人と経営システムで付加価値を生み出す収益モデルと言える。

 

 

ビジネスモデルが「収益モデル」を決める

 

3つのモデルパターンに共通していることは、粗利益率もしくは限界利益率を高めるための戦略が明確であること、それに対して経営資源を配分していることである。しかも、中途半端にするのではなく、意志を持って計画的かつ継続的に行っている。その結果として、高い利益率を実現している。

 

業種・業態が収益モデルを決めるのではなく、自社のビジネスモデルが収益モデルを決める。今回示した、ものづくり企業における経常利益率10%モデルの法則と自社の実態を照らし合わせ、ギャップがどこにあるかを明確にしていただきたい。

 

 

 

 

Profile
浜岡 裕明Hiroaki Hamaoka
財務戦略から計画数字をやり切るための具体策を一般社員にまで落とし込む業績管理体制構築に定評がある。活躍は財務面にとどまらず、幹部社員への教育においてはタナベ屈指の高い評価を得ている。
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