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メソッド2018.10.31

企業成長へつながる「若手社員の育成」:小菅 大貴

“入社3年”で結果は決まる

スポーツの世界に「ゴールデンエイジ(Golden Age)」という言葉がある。子どもの運動神経が著しく発達する、9~12歳ごろの約3年間を指す。トップアスリートを目指すためには、この時期に基本の型や姿勢を身に付けることが必要だといわれている。つまり行動習慣や癖、考え方は、良い意味でも悪い意味でも、生涯にわたって定着し続ける。

ビジネスにおいても同様の期間があると考えられており、一般的には入社してから3年間とされる。“入社3年”の間に、どのような意識、どのような環境で、どのように仕事へ取り組んでいくのか。また、大切な時間をどう過ごすのかで、その後の成長が変わっていく。

ある製造業の会社は、近年の「売り手市場」を受けてリクルート活動に力を入れており、採用難の中にあっても要員計画通り(約10名)の採用を続けている。入社後、彼ら・彼女らは1週間の新入社員研修と約1カ月間の部門別研修(製造・営業)を経て、現場に配属される。

新入社員たちは期待と不安を抱きつつ、少しでも会社に貢献できるよう、一生懸命働いている。しかし、採用実績が豊富で、入社時基礎教育にも力を入れている同社でさえ、3年後には10名のうち4名が離職しているという。

同社のように、人材の採用・教育に注力しているにもかかわらず、離職率が高水準で推移する企業が少なくない。離職の理由はさまざまだが、近年、特に多く見られるものが「キャリア成長が望めない」という理由である。具体的には「手に職がつかず、長い将来を考えると、つぶしがきかない仕事内容に思えた」といった声が多い。

いずれにしても、残業時間が多い、休日が少ないなどの働き方に関連する理由よりも、「今の会社でのキャリアに対する不安が高まっている」と言える。その要因として、最近の学生(主に大学生)は就職活動セミナーや授業などでキャリアデザインに関する話を聴く機会が以前に比べ増えており、キャリアに関する知識が高まっていることが考えられる。

【図表】各種教育研修の実施状況(単位:%、複数回答)

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出典:産労総合研究所「2017年度教育研修費用の実態調査」(2017年10月)

 

 

企業における教育投資は「若手重点主義」だが…

「就職先で、いかに自分が成長できるか」。これこそが、現代の若手社員が一番に考える労働観である。成長できそうになければ、すぐ辞めてしまう。労働力確保が困難な中、雇用した社員の離職を抑えて活躍してもらうため、各企業の教育投資額がここ5年で増加傾向にある。

【図表】は、人事労務系の民間調査機関「産労総合研究所」がまとめた、企業による「教育研修費用の実態調査(2017年度)」の結果である。それによると(複数回答)、新入社員教育を実施している企業の割合は93.2%と第1位。次いで、新入社員フォロー教育を実施している企業が78.8%と、新入社員向け教育が上位2つを占めているのが現状である。

多くの企業は、少子高齢化や労働力人口の減少などから労働力の確保が大きな経営課題となっており、教育投資の必要性が日増しに高まりを見せている。とりわけ、新入社員層の教育を重視している企業がいかに多いかが、この調査結果からうかがえる。もっとも、効果的な研修ができているかは別問題だ。せっかく投資したのに、育たない上に離職してしまうようでは、まったくの無意味である。では、どうすればよいのか。

 

 

会社が期待する役割の“全体像”を示す

若手層が、組織の中でどのように成長すればよいかを知らず、何に取り組むべきかも分かっていない場合が多い。企業が期待している役割(ステージ)の全体像を示した上で、組織で期待される役割がどのように変化し、今はどのようなことにチャレンジすべきかを明確に示す必要がある。

新入社員・若手社員層に限らず、人材育成の基本は「期待像を示し、目標を設定させる」ことだ。小学校の通知表を思い出してほしい。例えば、「思いやりと感謝の心を持ち、みんなと協力し合って活動する」という評価項目には、仲間に対する感謝の気持ちと協力姿勢を備えた人間に育ってほしいという期待値が示されている。これは、社会人においても重要である。

「とりあえず、がむしゃらに頑張ってくれよ」だけでは、どこに向かって自分は頑張ればよいのかが分からない。従って、1年後や3年後には「こんな社員に育ってほしい」という成長イメージを、上司の思いとともに指し示すことが、活躍する若手社員が育つファーストステップであると言える。

 

 

会社の目指すべき方向と自身の成長ベクトルを一致

離職理由で最も多いとされるのが「キャリアが望めない」だ。この理由を掘り下げれば、入社前に抱いていた働くイメージと入社後の実像とのギャップが大きいということに行き当たる。新入社員は、会社が求めていることは何か、どのように自分が成長して貢献すべきかが分からなくなり、「この会社にいても自分のキャリア実現は望めない」と諦めて、離職という選択肢を選ぶ。こうした心境に陥らせないためには、自社で働くキャリアイメージを持てるよう、企業側から若手社員に働き掛けることも重要だ。

ある会社が実施しているキャリアデザイン研修では、若手社員をいくつかのグループに分け、「どんな企業にしていきたいか、どんな企業がよいか」などを自由に付箋に書かせて、それを会社という木に貼り出している。その後、現在の自社と比較して違いを明確にさせ、それを埋めるために自社は何を変えるべきか、変わるために自らがどう成長していくかについて、資料にまとめている。

この会社が若手社員に伝えたいことは、会社と個人がWin-Winの関係にあるということだ。すなわち、自律的な自己成長のために、育成のサポートや成長意欲実現の機会を与えることが会社の役割であり、その会社へのエンゲージメント(愛着心、思い入れ)により全員経営を推進することが社員一人一人の役割、ということである。

このように、個人の成長を実現するために会社が在り続け、その結果、企業の成長につながる。このような仕組みや考え方を若手社員と共有して初めて、会社と自分自身の成長がつながるキャリアを描けるのである。

人口減少に歯止めがかからない中、“人材確保難”の時代は今後も続く。人材育成の必要性はますます高まっていくに違いない。企業が帰属意識の高い自律型組織を目指していくためには、入社1年目から3年目の若手に成長ステージを提示し、会社の進むべき方向と自己のキャリアのベクトルを合わせることが、よりいっそう求められよう。

 

 

 

 

Profile
小菅 大貴Daiki Kosuge
クライアントの人材開発を支えるコンサルタントとして、リーダー層から新入社員までの教育・セミナーの企画・運営・指導で幅広く活躍中。特に若手クラスへの指導においては、自らの実務で培ったリーダーシップ発揮のモデルを示し、分かりやすく実践的との高い評価を得ている。また、アカデミーコンサルティングチームのサブリーダーとして、全国での人材育成支援を展開している。
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