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メソッド2018.09.28

地域金融機関は「地域発展奉仕業」:神田 明生

 

地銀の過半数が“本業赤字”

金融庁の「金融仲介の改善に向けた検討会議」が公表した報告書(「地域金融の課題と競争のあり方」、2018年4月11日)によると、地域銀行(106行)の過半数の54行が2016年度決算で“本業赤字”だったという。本業(貸し出し・手数料ビジネス)の儲けである「コア業務純益」(本業の利益から国債売買など一時的な変動要因を除いたもの)の減少が進んでいるのだ。

信用金庫(信金)と信用組合(信組)は業務エリアが決まっており、エリア外への出店はほぼない。第一地方銀行(第一地銀)・第二地方銀行(第二地銀)は株式企業であるため、エリアの制限はないものの、メインエリア以外では隣接する都道府県や全国主要都市への出店にとどまっており、業務エリアが限定しているビジネスである。

第一・第二地銀、信金、信組の多くは、本店所在地の都道府県が活性化すれば、連動して自らの業績も増勢傾向になる。地域が盛り上がれば、自分たちも盛り上がるという構図だ。いずれの金融機関も、店舗がある地域から資金(預金)を集め、その地域に資金を貸し出す(融資)からである。

勤める行職員もまた、その地域に住居を構える人たちだ。つまり行職員の業務の多くは、地元を支えるために「お金」というインフラを交通整理・整備していることになる。金利というのは、交通整理・整備をするための必要経費であり、お金を地域で循環させる活動資金になっている。その意味で、地域行政と似たような特徴を備えていると言える。

 

 

「守りの経営」から「攻めの経営」へ

地域金融機関は、経済の血液である資金を循環させるインフラであり、地域経済の心臓部だ。これまでの地域金融機関は、「健全性」を重視したリスクマネジメントに軸足を置いてきた。金融監督庁(現・金融庁)が発足して以降、いわゆる“金融検査マニュアル”を順守し、守りの経営に徹してきた。

だが、現在は地域に根差した「攻めの経営」を求められるようになった。ある金融機関のトップは「地域にどうやって貢献するのかだけを考える金融機関にしなければ淘汰される。そのために何年も意識改革を続けている」と述べている。いかにして地域活性化に貢献していくかが、今後の大きな課題になっている。

そのヒントとして、政府の「まち・ひと・しごと創生本部」がまとめた「地方創生への取組状況に係るモニタリング調査結果」(2018年2月公表)から、金融機関による地域活性化の取り組み事例を2つ紹介しよう。

(1)婚活支援から“将来支援”

北海道苫小牧市に本店を構える「苫小牧信用金庫」は2013年6月に、「とましん結婚相談所(LLB会)」を設立した。これは、結婚を望む地域の若者を会員組織化して、それぞれの希望条件に合う異性を紹介するものだ。お見合いから交際までを支援し、結婚後もライフステージに応じた相談やアドバイスを行い、各種金融商品の提案・利用につなげる。

同庫は「国勢調査」のデータから、営業エリア(1市6町)の20~30歳代人口(約4.6万人)の47.5%が「未婚」であることに着目。晩婚・未婚化の進行に歯止めをかけ、少子高齢化と人口減少の抑制に貢献することが、ひいては地域活性化につながるとして婚活支援事業に取り組んだ。当初、苫小牧商工会議所との共催で婚活パーティーを実施していたが、単に出会いの場をつくるだけでは不十分だったため、効果的な方法がないかと模索し、会員組織の設立にたどり着いた。

具体的な取り組み内容は、会員(入会金1万円、有効期間3年)に結婚したい異性の希望条件を聞き、それに沿った相手の写真・プロフィールを紹介。会う承諾を双方から得られれば、同庫本店内の応接室でお見合いを行う(お見合いの他、本店で年齢層別の懇親会なども企画している)。交際が始まると、同庫は最低月1回、双方から報告を受けて、状況確認やアドバイスをする。

入籍・結婚に至れば、各種イベントへの招待や、出産時に絵本をプレゼントするなどして、関係を継続する。やがてクルマや住宅購入資金、子どもの教育費、資産運用などライフステージに応じた資金需要が生じれば相談に乗り、会員限定の優遇商品(住宅ローンなど)を提案。婚活支援から“将来支援”へとつなげていく。

近隣市町村の自治体・商工会議所と連携協定を締結し、各広報誌に情報を掲載するほか、トヨタや王子製紙など大手企業とも婚活パーティーを共催している。現在(2017年9月末)の会員数は男女合計で463名、紹介件数は917件、うち34組が結婚(準備中を含む)し、3人の子どもが誕生した。「定期積金契約」や住宅ローンの利用のほか、会員親族の事業の設備資金応需につながるなど、本業面での成果も出ているという。

(2)中小企業の販路拡大支援

大阪市中央区に本店を置く「大阪シティ信用金庫」は、地域の中小製造業が持つ技術を大手企業とマッチングし、新たな事業創出につなげる「シティ信金PLUS事業」を展開している。

同庫と取引する中小製造業は、他分野でも生かせる高い技術を有していたが、販路拡大の手立てがないという課題を抱えていた。そこで同庫は、取引先企業の技術を製品化・転用化する仕組みが必要だと考えた。2006年に営業店と連携して取引先製造業をピックアップし、本部の企業支援部が訪問。事業や保有技術・特許などを調査し、画像や資料とセットにしたデータベース(DB)を独自開発した(現在2400社超が登録)。

同時に、関西地域に本社を置く大手メーカーと連携して協力体制を構築。併せて同庫内部で新たな体系的教育プログラムを取り入れ、企業支援部職員に研修を実施し、「技術と経営の分かる」人材を養成した。そして大手メーカーが抱える技術課題やライセンス可能な特許、販売可能な半製品、OEM供給などに関する情報を入手し、DBから選び出した取引先中小製造業をマッチングした。

営業店職員には、取引先中小製造業の技術を分かりやすく解説した『技術ハンドブック』(毎年改定)を配布し、これを基にしてDBの登録候補先企業の発掘や課題の発見、解決型提案営業などを実践した。その結果、大手メーカーに約1100案件を提案し、うち共同事業が約500件、製品・商品への採用が約120件に上り、取引先中小製造業の販路が拡大。飛躍的な売り上げの増加、それに伴う資金需要の創出、そして同庫職員の意識改革が進むなど、幅広い成果を得ている。

現在は、DBを活用して取引先企業同士のマッチングも行うほか、新たなビジネスモデルの構築支援や行政による各種支援策の活用支援、また大学などとの連携コーディネートを実施し、事業の成長や新事業創出に要する資金支援も実施している。

地域金融機関は、営業エリアの特性を認識し、自らの「ヒト・モノ・カネ・情報」を棚卸しして、地域活性化に向けた問題点を明確にする。その上で、「私たちは〇〇で地域に貢献する」と使命の再定義を行うことが重要である。

現状の各金融機関は、取り組み方針が横並びである場合が多い。エリアが近いライバルの金融機関よりも、自らの顧客とエリア特性を見つめ、より地域に密着した方針を構築すべきだ。そのためにも、全ての支店で全てのサービスを取り扱うのでなく、「このエリアの顧客のために」、特定サービスに特化する戦略もあり得る。ぜひ、支店・ブロック単位でエリア・顧客特性と問題点を分析し、解決に向けた取り組み方針と実行具体策を打ち出してほしい。

 

Profile
神田 明生Akio Kanda
「顧客視点の本質思考で、企業成長を実現する」が信条。顧客の思いを共有化し、課題解決に向けた、分かりやすい解説を強みとしている。営業・採用・教育を中心に支援を行い、経営者から新入社員まで、幅広い階層から厚い信頼を得ている。
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