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メソッド2018.06.29

組織と個人の「メンタル・モチベーション」:浜西 健太

重要度が増している「心の健康」と「やる気」

近年の日本は、人口減少に伴った生産年齢人口の減少が顕著である。一方、景気は拡大局面にあるため、慢性的に現場は人手不足だ。そこへ「働き方改革」やダイバーシティー、オープンイノベーションなど、新しい取り組みや考え方が次々押し寄せ、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化している。

そんな中、働く人たちの「メンタル・モチベーション」が重要度を増している。これは私の造語であり、メンタルヘルス(心の健康)とモチベーション(やる気)を組み合わせた概念である。


私は、これまで実施してきたコンサルティングや教育研修において、「売り上げと利益は継続的に出ているのに、働く人たちが健全とは言えない」ケースをさまざま見てきた。ストレスに悩まされている経営者、疲弊し切った経営幹部、精神疾患で出社もままならない社員など深刻なケースもあった。


このような社内の症状は、放置すると大変なことになる。だが「社長なのだから、つらいのは当然」「仕事なのだから、ストレスがあって当たり前」という社内の暗黙の了解で、経営者や社員が自ら思考停止してしまっている。私は、そのことに危機感を持っている。


「このままでは危ない」と薄々気付きながら、なぜ、このような状態が生まれるのか。私は、「会社を経営する社長も、雇用される社員も、『個人』と『組織』の2軸からメンタルヘルスやモチベーションについて考える時間が圧倒的に不足している」と考えている。


そこで今回は、個人と組織の2軸で考えるべきメンタル・モチベーションについて述べていきたい。

 

 

 

 

個人におけるメンタル・モチベーション

個人で考えるべきメンタル・モチベーションについて、大切なポイントを3点挙げたい。


(1)自分を心底、大切にする


自分のことを最も大切にできるのは、他の誰でもなく、自分自身である。これは当たり前のことなのだが、意外に忘れられがちである。もちろん、仲間の同僚や後輩、顧客や上司も大切なのだが、自分の身を犠牲にしてまで、それらの人たちを支え続けようとしないことである。


(2)適度な情動発散を心掛ける


私たちは、本能という強いエネルギーを、理性によって抑圧している。それは大人であるがゆえに、理性で我慢できている。ただ、理性の受け皿には限界がある。受け止め切れなくなった本能のエネルギーは、生命活動を維持する上で大切な脳幹へと向かっていく。その結果、脳幹が傷ついてしまう現象が「自律神経失調症」と呼ばれるものだ。


これを避けるため、適度に本能のエネルギーを開放するすべを身に付けておく必要がある。例えば、ジョギングや体操、ヨガ、スポーツなど、主に全身を使う運動が効果的であると考えられる。


(3)起きた出来事の“受け取り方”を変える


米国の臨床心理学者アルバート・エリスが、論理療法という心理療法の中で「ABC理論」を提唱している。これは、私たちの感情(C)は出来事(A)が決めているのではなく、出来事に対する受け取り方(B)が私たちの感情をつくっているという理論である。


当たり前だが、すでに起こった出来事を変えることは不可能だ。しかし、起きた出来事に対する受け取り方は、いくらでも変えることができる。

 

 

 

組織におけるメンタル・モチベーション

次に、組織で考えるべきメンタル・モチベーションについて大切な3点を述べたい。

(1)自発的動機付けを促す


これは働く社員一人一人が、各自の仕事にどんな意味を見いだせるかということだ。経営者・経営幹部が中心となり、社員に気づきを与えていくわけだが、最終的には社員自身が「自分はこんな思いがあって今の仕事に取り組んでいる」と自覚することが重要である。


(2)一番ワクワクする瞬間を最初に共有する


仕事で一番ワクワクする瞬間(営業→成約の瞬間、接客→顧客に感謝された瞬間)を社員と最初に共有し、そのイメージを強く焼き付けた状態で指示出しや教育を行うとよい。


例えば、営業担当者に指導する場合、電話のかけ方→提案の仕方→ニーズの聞き出し→訪問日の取り付けなど、順番通りに教えるだけだと担当者のモチベーションが上がらない。初めの2、3件の電話で断られるとすぐ諦めてしまうだろう。ただし成功するイメージがあれば、電話を切られてもモチベーションは簡単に切れない。


(3)傾聴を大切にする


「人はよく話をする相手よりも、よく話を聴いてくれる相手を信頼する」といわれる。これは間違いない。あなたは部下や後輩が相談に来たとき、きちんと話に耳を傾けているだろうか。パソコンを操作しながら、スマートフォンを見ながらなど、「ながら」で応じていないだろうか。また、相手の話を遮って「要は何なの、結論は?」など、論理的に振る舞うかのようにプレッシャーをかけてはいないだろうか。


「聴く」という行為は、自分の頭の中を一度真っ白にし、相手に姿勢も心も傾けて、意をくみ取ることなのである。

 

 

 

自分が楽と感じる状態の基準を徐々に引き上げる

最後にお伝えしたいことは、モチベーションのメカニズムである。つまり、人のモチベーション(やる気)は、上がり続けることがないということだ。

生物が内部・外部環境の変化に対し、体温や血糖値など生理的状態を一定に保つ性質を「恒常性」(ホメオスタシス)と呼ぶ。人にも必ず恒常性が作用しているため、自分自身が楽だと感じる状態(コンフォートゾーン)を自然に維持しようとする。


この性質を知らずに、「○○さんはやる気がないようだから駄目だ」とか、「私は昨日までやる気があったのに、今日はやる気がない。情けない」……と考えるのは危険である。人のモチベーションは上がりもするし、下がりもする。どんなに優れた人でも、やる気が常に上がり続けているということはあり得ない。


繰り返しになるが、精神状態の浮き沈みは、一個人の甘えや怠け癖に起因しているのではなく、そもそも人が持っている生来の性質に起因する。自分にも恒常性が働いていることを前提に、自分が楽だと感じるコンフォートゾーンの基準を徐々に引き上げることが大切だ(高いレベルの仕事が面白くなってくる=コンフォートゾーンが上がる)。


そのために、私たちがすぐに取り組めることは、次の2点である。1点目は、人には恒常性が働いていることをまず理解する。その上で、自分が違和感を覚えること、少しだけ負荷のかかることに挑戦してみることが大切である。


2点目は、自分の口から出る言葉を、「プラスのストローク」に置き換えるということだ。ストロークとは、対人コミュニケーションにおいて、その人の存在や価値を認める言葉や働き掛けをいい、プラスとは快適な気持ちになることを指す。つまり、自己を肯定する言葉を口にする。マイナス(否定的)の言葉は、自分の耳を通り、脳まで伝達される。その結果、マイナスの暗示を自分自身にかけることにつながってしまう。


このメカニズムを押さえつつ、個人と組織の2軸からメンタル・モチベーションについて考えていただきたい。

 

 

 

 

Profile
浜西 健太Kenta Hamanishi
経営者の思いを受け止める「経営相談パートナー」として、人材成長支援を軸に、数多くの企業を支援している。ビジョン実現に向けた社風改革、社員のモチベーションアップからメンタルへルス支援まで幅広い経験を持ち、人材成長への熱い思いとポジティブパワーで多くのファンから信頼を得ている。
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