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メソッド2018.05.31

ローカル企業の「採活」:経営コンサルティング本部

ローカル企業に厳しい採用市場

2019年4月入社の採用選考(大学・大学院生)が始まった。空前の売り手市場といわれる中で、人事担当者は苦労していることだろう。

リクルートワークス研究所が行った「第34回ワークス大卒求人倍率調査(2018年卒)」によると、2018年3月卒業の大卒・大学院卒求人倍率は1.78倍で前年の1.74倍からほぼ変わらない結果となった。

従業員規模別に見ると、300人未満は求人倍率6.45倍と、前年の4.16倍から2.29ポイント上昇したのに対し、5000人以上では0.39倍と、前年の0.59倍から0.2ポイント低下した。従業員規模間の倍率差は拡大している。

地方ではどうだろうか。人材情報サービス会社のマイナビが行った「2018年卒マイナビ大学生Uターン・地元就職に関する調査」によると、Uターン就職を希望する学生は年々減少傾向にある。特に地元外へ進学した学生がUターン就職を希望する割合は全国単位で見ても低い傾向にある。一方、関東地方出身者では高い傾向にあり、人材の都市部への一極集中が見て取れる。(【図表】)

【図表】地元就職希望(最も就職したい都道府県が卒業高校都道府県に一致)の割合

【図表】地元就職希望(最も就職したい都道府県が卒業高校都道府県に一致)の割合

このようなことから、ローカル企業における採用環境は年々厳しくなっており、従来通りの採用活動では人材確保が困難になっている。

 

 

ローカルの中小企業はなぜ選ばれないのか

ローカルエリアの中小企業が選ばれない理由としては、少子化や大手企業の地方越境による大量採用といった外的要因もある。しかし、私がさまざまな企業の採用活動を見た経験から言えば、実は会社内部に問題がある場合も多い。具体的には、次のような「採用との向き合い方」に問題を抱えていると考えている。

(1)「採用戦略」が不明確

採用サイドは何でもありの“来るもの拒まず状態”となってしまい自社PR(強み・魅力)、どんな人材が欲しいのか(求める人材像)、どの時期にどのような活動を通じて採用活動を展開していくのかなどが曖昧であり、学生が自社に魅力を感じず、他社と同じように映ってしまう。結果、せっかく内定を出しても決め手に欠け、辞退されてしまうのだ。

(2)「情報発信」が弱く、自社そのものが認知されない

そもそも学生が企業をよく知らない。このことを自社は認識しているだろうか。学生はB to Cの小売業や、地元で知名度の高い地域金融機関などしか知らない場合がほとんどである。

また、ホームページを開設していなかったり、あってもスマートフォンに対応していなかったりと、大都市圏に比べて情報発信に疎いのがローカル企業の実態である。学生がUターン就職を希望しても、県外から企業を探すことが難しいのだ。

交通インフラも都市部ほど整備されておらず、就職活動における企業訪問数も限られるため、「地元企業なのに知らなかった」という学生も少なくない。特に、B to B企業は学生の日常との接点が皆無である。地域では優良企業として有名であっても、学生からは見向きもされていないいうことが少なくない。

(3)「成果」となる指標や採用人数の目標設定がなされていない

大企業の場合、採用部門や採用専任の担当者がいる。営業部門と同じように採用に対する数値目標を持っており、達成するためにローカルエリアにまで越境してでも人材確保に奔走している。実際、最近はローカルエリアの高卒採用にも大企業が積極的に乗り出してきており、昔から地域の学校とのつながりなどにより人材を確保していたローカル企業すら、人が年々集まらなくなってきている。

中小企業の場合、採用専任者を配置している企業が少なく、多くは総務部門や経理部門と兼務しているケースが多い。十分な時間が割けないため、目標なき採用活動が黙認されており、昨今の厳しい環境もあって、「採用できなくて当たり前」といった雰囲気になっている企業も見受けられる。

このような現状を打破するためにも、採用との向き合い方を改める必要がある。実際、企業の採用担当者からどのように変えるべきか、相談される機会も増えてきている。その際に私は、次のように伝えている。

「採用そのものを人と企業を仲介する“機能”として捉える時代は終焉を迎え、人に選ばれるための『戦略』を考える採用担当者が求められている」

つまり、“選ぶ”から「選ばれる」に変化している現在、採用担当者が従来のような窓口的な機能だけを担っている企業には、学生が応募すらしなくなっていると言える。

 

 

ローカル企業の採用チーム

まずは、しっかりと採用活動における戦略とコンセプトを考えることである。ローカル企業の場合、「地元」という強力な地の利がある。地元就職を希望する学生が減少していても、急にゼロになることは考えにくい。つまり、大企業がリーチできないニッチな土俵での戦い方を構築して、ローカル企業ナンバーワンになれたら、採用の“価値”組になれるということである。

ライバルは雲の上の大企業ではなく、身近なローカル企業であり、トップ自らが先頭に立ち、全社横断型のチームでローカルエリアの採用戦略を検討すべきである。その採用チームに求められることは大きく2つある。

1つ目が「社内プロデュース力」である。会社案内のパンフレットをなぞったような表面的な内容ではなく、“現場レベル”の魅力・やりがいを伝える企画を実現できるかどうか。社内を動かし、全社協力体制を構築していくことが求められている。

2つ目は「セールス力」である。採用の生命線は、学生の心を動かすことだ。「働きたい」と共感させるスキルと、顧客に「買いたい」と思わせるスキルは同じである。

このように、事業領域まで踏み込んだプロデュース力と合同説明会・フォーラムで、集客するセールス力が求められる時代なのだ。担当者だけではなく、チームで多面的に対応しなければ成功しないと言える。

「これからの時代は省人化だ」「働き方改革だ」と言っても、「企業は人なり」という原理原則は今も昔も変わらない。人がいなければ経営は成り立たない。

採用環境の転換期を迎えている現在、大企業と同じことをやっていてもコストが増えていくだけである。ローカル企業にはローカル企業なりの選ばれ方があるのだ。自社に最適な「採活(採用活動)」をしっかりと積み重ねてほしい。

 

 

 

 

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