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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2017.12.26

現場のブランディング活動を発信しよう:藤原 将彦

ブランディングに前向きな中小企業は6割超だが……

やや古いデータだが、ある調査の結果を紹介しよう。2017年2月に企画デザイン会社のアイディーエイ(岡山県岡山市)が発表したもので、300名未満の中小企業に勤務する男女220人に、勤め先の「ブランディング」の実施状況や考え方を尋ねている。

それによると、ブランディングに前向きだとする回答が6割以上(66%)を占めていた。大多数の中小企業がブランディングを活用しようと考えていることが分かる。ところが、回答内容を詳しく見ると、「施策を行っていて効果も出ている」と答えた人はわずか4%にすぎず、「施策を行っているが、改善が必要」と回答した人が27%に上っていた。効果が出ている会社より、改善が必要な会社の方が7倍近くも存在していることになる。

では、そうした企業はどのような点に改善の必要性を感じているのだろうか。「改善が必要」と答えた人に今後の改善方法を尋ねたところ(複数回答)、「進め方」と答えた人が65%と圧倒的に多かったという。つまりブランディングへの関心は高いものの、実践しても効果に結び付けられていないケースが多いというのが、中小企業の現状である。

 

「3つの価値」と「7つのプロセス」

2012年12月に始まった景気の回復局面が58カ月(2017年9月時点)となり、戦後2番目に長い「いざなぎ景気」(1965年11月~1970年7月、57カ月間)を超えたという。しかし、そんな“好景気”と裏腹に、中堅・中小企業の付加価値は少子高齢化と長期デフレ基調、コモディティー化の加速によって伸び悩んでいる。

また、先行きも予断を許さない。2019年10月に予定されている消費税率10%引き上げや、2020年の東京オリンピック・パラリンピック以降に予想される景気減速など、企業間価格競争の激化が見込まれている。同時に、生活者の価値観の変化や働き方の多様化など、企業に社会性や人間性を求める傾向も強くなっていく。そうなると、経営体力が勝る大手企業には太刀打ちできない。

中堅・中小企業が対抗するためには、価格より価値で選ばれるブランドづくりが不可欠である。そのためタナベ経営は現在、ブランディングについて体系化し、中堅・中小企業の付加価値向上に取り組む「ブランディング戦略研究会」、および「ブランディングコンサルティングチーム」を発足している。また、ブランディングを成功に導くポイントとして「3つの価値」と「7つのプロセス」を提唱している。まず、3つの価値とは、「顧客価値・人材価値・社会価値」のことである(【図表1】)。顧客の課題解決や願望実現、優秀な人材や自由闊かったつ達な社風、地域や環境への貢献など、企業ブランドにどのようなテーマを持たせるかを明確にし、「突き抜ける価値」をデザインしていく。そして、7つのプロセスによってブランドを展開する。(【図表2】)

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中堅・中小企業のブランディングの問題点

タナベ経営のブランディング戦略研究会では、クライアント企業を対象に前述の7つのプロセスの取り組み状況について、全100項目の質問を記載したチェックリストに基づきアンケート調査を実施した。その結果、ブランドコンセプトは明確で、重要性も理解されていたが、ブランドマネジメント、アウターブランディング、インナーブランディングの3つに対する取り組みで課題が見られた。

すなわち、ブランドの価値提供を実際に行っていく後工程において、思うように進まない企業が多かった。特に、ブランドを維持するための行動が明確になっていないこと(社員がブランドを具現化するためのアプローチが未整備)、そしてその行動が人事処遇などの評価制度と連動していない(ブランディングに貢献した人材を評価できていない)ことが問題であった。

従って、「ブランドを正しく伝える行動指針の策定(ブランドブックの作成など)」→「全社でブランドを維持・管理するための仕組みづくり」→「ブランド貢献度に基づく評価基準の設定」という3つのステップで、ブランドマネジメントおよびインナーブランディングを進める必要がある。

一方、アウターブランディングにおいては、展示会やキャンペーンイベントなどリアルなブランドの伝達手段は有しているものの、ブランドを展開するための日常の種まき活動が課題となっている。特に、私が問題視していることは、社員がブランディングに対する活動を、日々業務において創意工夫しながら行っているにもかかわらず、「見過ごされている」「ストックされていない」「社内外にPRできていない」など、非常にもったいない事例が散見される点である。

 

 

ブランディング活動を財産としてストックする

一戸建て、マンション、自動車といった人生で数回しか購入しない商品は、購入するタイミングでブランディングを始めても遅いため、接点をつくるための発信が必要である。また、食品小売店など顧客と日々接する機会が多い業種においては、新鮮な情報・価値を絶えず提供し続ける仕組みが必要である。

ブランディングを効率的に行っている企業を見ると、「プレスリリースの活用」に加えて、「Instagram、YouTube、Facebook への投稿」などを活用し、1つのブランディング活動を「リクルーティング」や「マインドシェア獲得」「将来の顧客創造」へと展開し、一石二鳥、三鳥で他社との差別化を図っている。

日本企業は欧米企業に比べ、モノづくりは一流だが、マーケティングやブランディングは二流、三流だといわれる。逆説的にいえば、ブランディングは未開拓領域であり、まだまだ伸ばす余地が大きい分野ともいえる。ヒト・モノ・カネは時とともに変わる中、企業が100年後にも残せる価値があるとしたら、それはブランドという無形の価値なのだ。

「ブランディングについて、何から手を付けていいか分からない」という場合は、まずは社内でブランディング(顧客価値・人材価値・社会価値)に取り組んでいる社員たちの活動をあらためて発見し、ストックして、社内外に発信することから始めていただきたい。

 

Profile
藤原 将彦Masahiko Fujihara
クライアント視点でのコンサルティングスタイルで、企業の原点である「ミッションの確立」や、未来に向けた「ビジョン・戦略の構築」を中心に活躍中。また、新規事業開発・推進においても、前向きな情熱を持って取り組み、クライアント企業の成長エンジンづくりに貢献している。
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