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【メソッド】

コンサルティング メソッド

タナベコンサルティンググループの各分野のプロフェッショナル・コンサルタントが、経営戦略・事業戦略・組織戦略などの経営メソッドを解説・提言します。
メソッド2017.11.28

ビジョン実現に向けた戦略成功の3条件を満たす方法:経営コンサルティング本部

戦略を成功させる条件

 

タナベ経営の事業戦略の原理原則は、「勝てる場(時)の発見と勝てる条件づくり」である。

 

中国の思想家・孟子や孫武の言葉を借りれば、戦略を成功させる3条件は「天地人」だと言い換えられる。つまり「天の時」をつかみ、「地の利」を得て、「人の和」を重んじた者が生き残る。

 

まずは、天の時を考察する。日本のマクロ経済環境は、景気減速の潮目である2020年まであと2年に迫る。「ポスト2020」(2020年以降)では多くのマーケットが頭打ち・低迷に転じると予測されるが、その一方で成長マーケットも台頭してくる。

 

例えば、2025年ごろまでに2倍以上の成長が予測されているヘルスケア分野や観光分野、そしてIoT・AI・ロボットなどの先端テクノロジー分野だ。こうした時流に沿った次代の成長マーケットを見極め、展開を図る。これが「天の時をつかむ」ということである。

 

続いて、地の利を考察する。“地”は立地や地理的条件とも取れるが、地勢(地域全体のありさま)と捉える。つまり地域に散在する社会的課題を解決し、顧客価値を発揮することである。社会が急速に変化している今の環境下では、多くの課題が生まれている。そうした社会が抱える課題を解決する自社の使命を明らかにし、それに忠実に取り組む「ミッションロイヤルティー戦略」を実現している企業は、地の利を得た企業であるといえる。

 

最後に、人の和を考察する。これは一致団結した人心のことだ。従業員の団結だけを意味しているわけではない。株主や金融機関、取引先、顧客、地域住民など、自社と何らかの利害関係にあるステークホルダー全体の和合団結が重要である。そのために、ブランディングやCI(コーポレート・アイデンティティー)の浸透、確立が必要である。

 

 

天の時+地の利を得る市場創造開発(ビジネスモデル4.0展開)

 

タナベ経営は、現在の環境下で事業の進化・成長を遂げるための戦略として「ビジネスモデル4.0」を提唱している。これまで日本企業のビジネスモデルは、設備力と販売網による成長(2.0)、商品開発と品質・サービスの追求による成長(3.0)と、環境の変化に合わせて進化してきた。

 

ところが、リーマン・ショックや東日本大震災を経た2010年以降、ビジネス環境や価値観が大きく変化した。そこで「社会性と突き抜ける価値」で成長するモデル(4.0)が求められている。

 

日本は、地方の過疎化、超高齢社会、インフラ老朽化など、社会構造を抜本的に見直す「社会課題解決時代」が到来している。これはある意味において、イノベーションを起こすチャンスでもある。

 

これらの課題マーケットを制するには、商品やサービス単体ではなく、ビジネスモデル全体のデザイン再設計と、突き抜ける価値を追求することが重要だ。そのためにも社会課題を解決する価値と、経済価値の両立を継続性の担保とするのがビジネスモデル4.0の肝である。

 

ビジネスモデル開発には、ドメイン、テクノロジー、ミッションの3つの着眼点がある。ここでは、天の時と地の利を最大限に得るための「ミッション×ビジネスモデル」という開発方法について述べよう。具体的には、企業の社会的使命を縦軸に置き、物質的価値から体験価値や問題解決といったビジネスモデル化を横軸にとったデザインで進めていく手法である。

 

ある新聞販売店を事例に挙げよう。その販売店は、縦軸(ミッション軸)に①「新聞小売業」、②「利用者満足」、③「地域・社会貢献」を、横軸(ビジネスモデル軸)には①「商品販売」、②「サービス」、③「ソリューション」をそれぞれ設定し、各マトリクス上の掛け合わせで9つのビジネスモデルの展開をデザインした。そして最上段右に位置する「地域・社会貢献」×「ソリューション」という視点で、新聞販売拠点網を生かした健康増進サポートの事業アイデア(介護食の宅配事業)を創出した。

 

企業の使命として社会性を追求していくことは、社会価値という事業の付加価値を高めることにつながるため、社会課題を解決する市場創造開発で天の時と地の利を得ていただきたい。

 

 

地の利+人の和を得るブランディング×マーケティング

 

ビジネスモデル4.0への進化に合わせて、マーケティングも進化させる必要がある。つまり、ソリューション型の事業活動自体をブランディングし、世の中にPRしてファンや応援者を創るようなマーケティング活動を目指す必要がある。社会課題の解決に挑戦する企業を加速的に成長させていくマーケティング戦略を、私は「ブランディング・エンゲージマーケティング」と呼んでいる。

 

マーケティングサイクルは【図表】の通りである。顧客との接点となる各リレーションポイントで、ブランドを高めるアプローチを通じ、ファンや応援者を創ることを目的とする。

 

私は7つのリレーションポイントがあると考えており、適切にアプローチし、「認知」から「愛情」までのサイクルフローで対象者のロスを少なくし、効果的に進めていくことが最大の目標である。

 

対象者とのエンゲージメント率(結び付き)を高めるには、各リレーションポイントで顧客化が進まない(逸脱する)ボトルネックを解消することだ。転換が悪い箇所への取り組み内容を次に整理する。

 

①「認知」→「訴求」への転換

対象者の誘引力を高める。そのためには、事業活動自体のブランディング広告やプレスリリースを発信し、社会課題解決に挑戦していることを認知・訴求する。

 

②「訴求」→「調査・比較」

好奇心を最適化する。コンテンツアプローチが効果的だ。例えば、社会的課題への取り組み内容をコンテンツ化し、自社の魅力とともに配信する。コンテンツが本物なら、クチコミやソーシャルメディアでおのずと広がっていく。

 

③「調査・比較」→「行動・参加」

行動への動機付けを高める。そのためには、オピニオンリーダーやアンバサダーを育成しておき、イベント開催への協力や行動を後押しする仕掛けづくりをしておく。

 

④「行動・参加」→「購入・利用」

コミットメントを高める。これが弱い場合、いわゆる「マーケティングの4P」(Product:製品、Price:価格、Promotion:販売促進、Place:流通)自体がないというケースもあるが、たいていは営業力不足の影響が大きい。これを補うには、オンラインとオフラインを統合したオムニチャネルの活動で顧客フォローを行う。顧客の周りにいくつものアプローチ点を作るだけではなく、双方向の導線を築いておく(店舗・営業⇔Web・SNS誘導)。

 

⑤「購入・利用」→「推奨・共有」

感動や親近感を高める。実施内容としては、購入後の経験を増やすためのイベント(感謝祭や意見交換会など)、フォロー活動などが効果的である。期待以上のことを与えられると、感動と親近感が育まれ、対象者は忠実な推奨者となり、紹介率が高まる。

 

⑥「推奨・共有」→「愛情」

最後は、顧客をどれだけファンや応援者にできるか。ランクに応じたサービス提供やアンバサダー認定などで、売る側と買う側の関係性ではなく、友人(パートナー)と見なし、ライフスタイルと一体化していくことが肝要である。

 

また、ファン化のサイクル完成と別の対象者への「推奨」サイクルをつなげる活動によって、顧客と新たな対象者との無限リングがつながる。これこそエンゲージメントリングで相乗効果の輪がつながった状態が実現する。

 

 

天地人を最大限得る周年記念活動

 

2017年中に節目の年(○○周年)を迎えた企業は、全国で14万5103社(帝国データバンク調べ)に上るという。節目の年を祝うだけでなく、ビジョンを再検討する機会になり得る。周年記念イベントは自社ブランド向上とともに、ステークホルダーの団結力を高める側面もある。

 

周年記念のタイミングで、リ・ブランディングする企業は多い。私が担当しているクライアント企業でも、120周年の水産物卸売会社、100周年の製粉メーカーなど、周年というタイミングを機に、社会課題を解決するビジネスモデルへの挑戦を始めている。周年という与えられた天の時を活用し、時流に乗った市場創造開発と「ブランディング×マーケティング」を実践することで、持続的発展基盤を再構築してほしい。

 

ブランディング・エンゲージマーケティングサイクル

 

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